5.解説

本件通達規定は、上記4(1)の事情から、契約基準の適用を認めるが、通達の文言からは、その適用は納税者の任意というように読める。したがって、審判所が、「請求人において引渡基準ではなく契約基準を採用すべき理由は特に見当たらない。(中略)本件支払対価に係る消費税等の額の大部分の還付を受ける目的のみで行われた経理処理と認められ、その他に合理的な理由は認められない」と判断し、審査請求を棄却したのは、やや強引な解釈と思われる。けだし、契約基準を採用することに合理的な理由が必要とする要件は文理上見当たらないからである。

裁決書によれば、本件建物等は、調整対象固定資産に該当する(消法2⑯、消令5①)ので、仮に本件課税期間中に、本件支払対価の仕入れ税額控除が認められたとしても、調整対象固定資産の所謂3年縛りの対象となるため、課税売上割合が著しく減少すれば(本件建物は、居住賃貸用建物であったことが推認される)、本件課税期間に仕入税額控除された部分は結果的に調整される。ところが、本件で請求人は、本件建物等の「課税仕入れを行った日」(平成24年11月30日)より前(同月27日)に、簡易課税制度選択届出書を提出し、本件課税期間の翌課税期間から簡易課税制度の適用を受けており、3年縛りの規制も免れたようである。現在では、同選択届出書を提出した後に調整対象固定資産の仕入れ等をした場合には、当該届出書の提出はなかったものとみなされる(消法37④)ので、本件のような簡易課税制度を選択して3年縛りを外すという行為は不可能となっている。

更に、請求人[2]は、少額の金地金を購入することで100%の課税売上割合を作出しているが、同スキームは、上記調整対象固定資産の3年縛り規制導入(平成22年税制改正)の契機となった自販機スキームと同様、社会的に問題視されていた。しかし、令和2年の改正で、居住用賃貸建物の取得等に係る課税仕入れ等の税額については、原則仕入税額控除の対象としないということで解決が図られた(消法30⑩)。


[2] 裁決書によれば、請求人は新設分割により設立された法人であるが、当該新設分割親法人は、請求人の税務代理人である税理士が全額を出資して設立された法人で、同税理士が唯一の代表社員であり、同税理士は不動産投資に係る消費税還付等の不動産投資に関わる税務を専門的に扱っていたとのことである。


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