貸付けの用に供されている自己所有の建物の取壊し費用については、過去の裁決例においても、賃貸人の必要経費該当性が認められていますが、本件は、自己所有の土地にその賃借人所有の建物があり、当該建物の取壊し費用を土地の賃貸人が負担した場合、当該支出が賃貸人の不動産所得の計算上必要経費に算入されるかが争われました。

請求人らが賃貸の用に供していた土地の上に存する賃借人所有の建物収去のための支出は、請求人らの不動産所得を生ずべき業務と直接関係し、かつ、業務の遂行上必要なものであったといえるから、不動産所得の金額の計算上必要経費に算入することができるとした事例【所得税】

国税不服審判所令和元年9月20日裁決

1.事実関係

本件は、不動産貸付業を営む請求人らが、その賃貸していた土地(本件土地)上に存する賃借人所有の建物(本件各建物)収去に要した費用(本件各建物収去費)について、いずれも不動産所得の金額の計算上必要経費に算入して所得税等の確定申告をしたところ、原処分庁が、当該費用は家事上の経費に該当し、必要経費に算入することができないとして、所得税等の更正処分等を行ったのに対し、請求人らが、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

請求人らは、本件土地の賃借人であるMの死亡後、相続財産管理人の選任審判を申し立てた上、本件土地賃貸借契約を、賃料不払いを理由に解除し、同契約を終了させたものの、本件各建物賃借人らが本件各建物から任意に退去せず、本件相続財産法人[1]が本件各建物を所有して本件土地を占有し続けたため、本件相続財産法人に対して本件各建物の収去及び本件土地の明渡し等を求め訴訟を提起した。その後、当事者間で和解が成立し、最終的に、占有者らが期日までに本件各建物を退去したことを受けて、請求人らは、地方裁判所に対し、本件各建物の収去の授権決定を申し立て、同裁判所の執行官が本件各建物を収去し、本件土地の明渡しが完了した。なお、本件相続財産法人は一貫して資力なく、請求人が本件各建物の収去に係る費用を負担した。

2.争点

本件各建物収去費は、請求人らの不動産所得の金額の計算上必要経費に算入できるか。

3.原処分庁の主張

本件各建物収去費は、本件各建物の解体後の新たな本件土地の利用目的にかかわらず、請求人らの不動産所得を生ずべき事業の用に供されていない土地の上に存する、このような事業の用に供されていない他人の建物を任意に処分するのに要した費用というべきであるから、所得税法第45条《家事関連費の必要経費の不算入等》第1項の家事上の経費に該当する。

4.審判所の判断

(1)法令解釈

不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すべき「販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用」(所得税法第37条第1項)に該当するためには、これと必要経費に算入されない家事上の経費(同法第45条第1項第1号)との区分が明確となる必要があることなどからすると、客観的にみて、当該支出が不動産所得を生ずべき業務と直接関係し、かつ、業務の遂行上必要であることを要すると解するのが相当である。

そしてその判断は、単に当該業務を行うものの主観的判断によるのではなく、当該業務の内容等個別具体的な諸事情に即して社会通念に従って客観的に行われるべきである。

(2)当てはめ

請求人らの不動産所得を生ずべき業務は、本件土地賃貸借契約の解除後本件各建物の収去に至るまでも継続しており、本件各建物収去費は、かかる一連の業務の中で支出されたものであるところ、請求人らは、本件土地から収益を得る業務を遂行するためには、本件各建物を収去する必要があり、その収去に係る費用については、当初から自らが負担することを想定して本件各建物の収去までの手続を遂行し、本件各建物収去費を支出したところ、実際にも、本件相続財産法人は無資力であり、当該支出の時点において、請求又は事後的に求償しても、およそ回収が見込めない状況にあったのであり、客観的にみても、本件各建物収去費は、請求人らにおいて、自ら負担するほかなかったものと認められる。

そうすると、本件各建物収去費の支出は、客観的にみて、請求人らの不動産所得を生ずべき業務と直接関係し、かつ、業務の遂行上必要なものであったといえる。

以上のとおり、本件各建物収去費は、請求人らの、不動産所得の金額の計算上必要経費に算入することができる。

5.検討

本裁決の意義は、不動産貸付業務は、基本的には、当該不動産を貸し付けてからその返還を受けるまでが一連の業務というべきという点につき審判所が明らかにした点にある。しかしながら原処分庁は、本件土地賃貸借契約が終了した日以後、本件土地は、請求人らの事業の用に供されていない資産であるから、不動産所得の金額の計算上必要経費に算入できない旨主張した。

これに対し、審判所は、不動産の返還を受けるまでが不動産の貸付業務の一連の業務というべきであること、また、請求人らは、本件相続財産法人に対して賃料相当損害金として損害賠償請求権を取得することになるところ、所得税法施行令第94条《事業所得の収入金額とされる保険金等》第1項第2号において不動産所得に係る収入金額に代わる性質を有するものはその収入金額とする旨規定されていることから、本件土地賃貸借契約の終了をもって請求人らの本件土地の貸付けという不動産所得を生ずべき業務が終了したとはいえず、本件土地は、本件土地賃貸借契約終了後も請求人らの事業の用に供されていたものというべきであるとして、原処分庁の上記主張を退けた。


[1] 民法第951条は、相続人があることが明らかでないときは、相続財産は法人とする旨規定している。本件土地の賃借人であり本件各建物の所有者であったMは平成24年に死亡したが、その法定相続人は全員Mの相続財産について相続放棄したため、Mの相続財産は請求人の申立により、相続財産法人(本件相続財産法人)となった。


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