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元国税審判官が解説 公表裁決から学ぶ税務判断のポイント(第3回)重加算税の判断ポイント 従業員の「隠ぺい・仮装」行為が法人と同一視できないとされた事例

従業員などが、仮装・隠ぺい等の不正行為を行った場合であっても、それが法人などの納税者本人の行為と同視することができる場合には、納税者本人に対し重加算税を賦課することができるとされています。本件では、架空の請求書を作成して請求人から金員を詐取した従業員の行為が、請求人の行為と同視できるかが争われました。

従業員が、架空の請求書を作成して請求人に交付した一連の行為は、請求人の行為と同視できず、国税通則法68条《重加算税》に規定する「隠ぺいし、又は仮装し」に該当する事実は認められないとした事例【法人税】

国税不服審判所令和元年10月4日裁決(国税不服審判所HP)

1.事実関係

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が損金の額に算入した外注費のうち、下請業者への工事発注業務等を担当していた請求人の従業員が親族名義の口座に振り込ませた金員について、原処分庁が、架空外注費であり、当該従業員による上記行為は納税者による隠ぺい又は仮装に該当するとして、法人税、地方法人税及び消費税等に係る重加算税の各賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、当該従業員による上記行為は納税者による隠蔽又は仮装に該当しないことなどを理由として、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

ここでいう親族名義の口座とは、当該従業員(以下「本件従業員」という。)の妻の使用する屋号が表示されたものである。本件従業員は、請求人に雇用されて以後、業務内容及び権限に変更はなく、請求人の経営に参画することや、経理業務に関与することはなかった。また、本件従業員及びその妻は、原処分調査時に、上記外注費が架空であること、請求人から詐取した金員について、ゴルフ代や飲食代に流用したことを認めている。

2.主な争点

請求人に通則法第68条第1項に規定する「隠ぺいし、又は仮装し」に該当する事実があるか否か。

3.原処分庁の主張

納税者たる法人の従業員が隠ぺい又は仮装行為を行った場合には、当該法人は、法人の機関として役員に行動させ、また、従業員を自らの手足として用いて、活動領域を拡大することによってそこから経済的な利益を得ている以上、その拡大された活動領域において生じる危険ないし責任も負担していると考えられ、従業員の業務に関連する行為は、当該法人の活動領域内の行為として自己の行為の一部分とみることができることから、当該法人は適正な申告をすべき義務を自ら怠ったものとみて、重加算税の適用対象となるというべきである。

4.審判所の判断

(1)法令解釈

通則法第68条第1項に規定する重加算税の制度は、納税者が過少申告をするにつき隠ぺい又は仮装という不正手段を用いていた場合に、過少申告加算税よりも重い行政上の制裁を課すことによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものであり、本来的には、納税者自身による隠ぺい又は仮装する行為の防止を企図したものと解される。

しかし、納税者以外の者が隠ぺい又は仮装する行為を行った場合であっても、それが納税者本人の行為と同視することができるときには、納税者本人に対して重加算税を賦課することができると解するのが相当である。

そして、従業員の行為を納税者本人の行為と同視できるか否かについては、①その従業員の地位・権限、②その従業員の行為態様、③その従業員に対する管理・監督の程度等を総合考慮して判断するのが相当である。

(2)当てはめ

審判所は、本件従業員が、①経営に参画することや、経理業務に関与することのない一使用人であること、②本件行為は、本件従業員が私的費用に充てるため金員を請求人から詐取するために独断で行ったものであること、③請求人において、本件行為のような詐取行為を防止するという点では、管理・監督が不十分であったと認定し、本件行為を請求人の行為と同視することは相当ではないと判断した。

5.検討

本件は、法人の一従業員が行った不正行為について、法人本体の行為と同視できるかが問われた事案であり、筆者の知る限り、このような裁判例は過去に存在しない[1] 。また、一従業員の行う行為といっても中身は多種多様なものがあるので、法人の代表者以外の者が行った不正行為について、法人の行為と同視できるか否かを判断する一律の基準を設けることは困難である。そこで審判所は、さまざまな事情を総合的に判断する基準として、上記法令解釈にいう3つの基準、すなわち、①その従業員の地位・権限、②その従業員の行為態様、③その従業員に対する管理・監督の程度等を総合考慮して判断することとしたものと解される。

本件においては、本件従業員が原処分調査の段階で外注費が架空であることを認めており、架空請求が簡単に社内承認されてしまう内部統制の脆弱さ等もあって、上記3つの認定は比較的容易であったものと思われる。

 


[1] 法人の要職にある者等が関与した不正行為の事案として、いわゆるM税理士事件最高裁平成18年4月20日第一小法廷判決(民集60巻4号1611頁)や、日本美装事件東京高裁平成21年2月18日判決(訟月56巻5号1644頁)などがあるが、前者は税務代理人である税理士、後者は経理部長としての地位にある者が行った行為について、法人の行為と同視することができるとし、重加算税の賦課は相当であると判示した。


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著者: 霞 晴久

公認会計士・税理士

監査法人トーマツ、新日本監査法人、国税不服審判所を経て現在は霞晴久公認会計士事務所長
監査法人時代は、会計監査、海外勤務(欧州に通算14年駐在)及び不正調査に従事。
現在は税務と不正調査の「二刀流」を強みとしている。
主な著書(共著)として、「欧州主要国の税法」(2002年)及び「新版架空循環取引」(2019年)がある。
事務所HP:https://kasumi-cpa.com/

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