今回、ご紹介するのは公認会計士・morningstar氏。東京大学卒業後、4大監査法人に入所。2009年には国家予算編成のために民主党政権が導入した行政刷新会議が行う事業仕分けに参画。霞ヶ関に出向をした。その後は、外資系企業や日系企業にて組織内会計士として内部監査に従事。現在、Twitterではフォロワー数1.7万人を超え、会計領域で活躍をしている士業や会計士試験勉強中の若手層からも支持をされている実力派会計人だ。公認会計士は監査法人の次のキャリアとして内部監査業務はとても魅力的だと話すmorningstar氏のこれまで明かしてこなかった過去をKaikeiZineが独占取材!内部監査業務の醍醐味に迫ります。(取材・撮影:レックスアドバイザーズ 市川)
どんな仕事も一生懸命に。監査法人で学んだこと
東京大学卒業後、銀行勤務を経て大手監査法人にご入所されています。
morningstar:26歳で公認会計士試験合格後は、大手監査法人に就職をしました。ここでのターニングポイントはいくつかあり、1つ目はアメリカオフィスへ出向したことでした。入所8年目でマネージャーに昇格したタイミングで1年半ほど、赴任させてもらいました。
しかし当時は英語が得意ではなく、調書を英文で書くのが大変でした。「引当金を戻入れる」という言葉を会計ではよく使いますが、英語で「戻入れる」を何と言うのかすら分からなかったのです。こうした言語の壁があるがゆえに、今まで簡単にできていたことができなくなってしまうもどかしさを感じました。
ただ、このときに学んだのは、仕事の難しさと注目の度合いは相関性がないということ。当時、私は売上がそこまで大きくない企業の会計監査をしていました。一方、このあと私が経験することになる内閣府での仕事は、世間的な注目度も断然高いもの。しかし私にとって仕事の大変さは同じでした。
仕事の大きさや社会的な注目度というものは、そこに従事している人間が感じる大変さや難易度とは全く関係なく、”外からの見た目”では分からない。そしてどちらも一生懸命やるしかないということを実感しました。
2つ目は1年半ほどのアメリカ勤務のあとに、日本へ帰国してマネージャーとしてチームメンバーを持った時のこと。ここでは上司としてメンバーにより成長をしてもらいたい。またクライアントにはより高品質な監査サービスを提供したいという気持ちで、私なりにマネジメント業務をしていたのですが、チームメンバーには理解を示してもらえず、上司ともうまくいかず、どうしたらいいのかと悩みました。
解決方法が見つからないままだったのですが、その答えを見つけたのが、3つ目のターニングポイントとなる霞ヶ関への出向です。2008年から行われた事業仕分けのプロジェクトの裏方として政治家の方に公認会計士の目線から資料の説明をしたり、ペーパーを作る仕事をすることになりました。蓮舫議員の「2位じゃだめなんですか?」という発言は有名ですよね。ニュースで流れてくる映像からは、仕分けを行う厳しい印象に映っていましたが、蓮舫議員は部下にもとても優しく丁寧な方で、こちらもメディアが流す“外からの見た目“だけでは社会の真実は見えてこないのだということも知りました。
ここでは2年間従事しましたが、一番印象に残っているのは役所の方々の“相手の立場に立って納得をしてもらう”ことを重んじる文化です。根回しというと悪い言葉にきこえますが、オフィシャルな会議でいきなり関係者に話をしてその場でOKを取ろうとしてもうまくいきません。関係者には、時間を取ってでもきちんと説明して合意を取ってから物事を進める。そういった技術や根回しをする大切さはこのときに学びました。
そして役人の方のコツコツと地道に物事を進めていく姿勢を目の当たりにしたときに、私は2つ目のターニングポイントの原因が何だったのか思い至りました。当時の私は、ルールに基づいた正しいことを伝えていたつもりでした。しかし相手にどのように話せば理解をしてもらえるかを考えていなかったがゆえに、メンバーの納得は得られず、結果何も進展しなかったのです。きちんとステップを踏んで地道に一つずつ前に進むことを伝えていたら、また違った結果があったかもしれません。ここでの学びは、今もとても活きています。
内部監査の業務で組織内から支援をしていく
その後、外資系企業へ転職をされます。
morningstar:2年後、霞ヶ関への出向は終わり、監査法人に戻ってきたのですが、当時は不景気の影響もあり監査法人でもリストラが始まります。これを機に、自分のキャリアについて考えるきっかけとなりました。これまでの監査の経験と英語を使った仕事をしたいと外資系企業に転職をしました。2012年のことです。仕事内容は内部監査を主に担当しました。今から10年ほど前で、日系企業では内部監査を重視している企業は少なかったけれども、外資ということもあり、内部監査を重視していましたし、英語も使えるグローバルな環境も魅力でした。ここには9年間在職しました。
最初の7年間は日本法人の内部監査の責任者をしていましたが、印象深いのは内部監査の観点から低迷していたビジネスの業績を伸ばすサポートができたことです。ある事業部で、業績が低迷している上に、データも不可解な点がありました。監査に入ってみると、業績が悪化しているがゆえに、無理な値引きなど苦し紛れの処理がたくさん見つかったのです。こういった対応は、業績が悪いからといって継続的になってしまうと、顧客から足元を見られて正規の値段で買っていただけなくなります。また、値引きを待たれて、月末に受注が集中するようになると、生産・出荷のプロセスにも影響する。そうやってみんなが苦しくなって悪循環になる。私たちは監査の立場だったので、従業員を守る意味でも、グレーな部分のある営業手法はやめようと根気強く提案を続け、現場でも改善をしてもらいました。もちろん最初は事業部の業績はさらに苦しくなりましたが、一巡りすると業績も回復したのです。
監査法人でチームメンバーと上手くいかなかったときに、正しいことを言っても改善されないもどかしさがありました。しかし霞ヶ関での経験を経て「100正しいことを言って一つも改善してもらえなかったら意味がない」と知ることができたので、少しでも改善してもらえるポイントが無いか話し合ったところ、こちらの提案を受け入れてもらうことができました。
こうした内部監査の仕事にはやりがいもあり、日本法人の社長やCFOとの関係も良かったのですが、親会社が日本法人の内部監査部門の廃止を決定し、それに伴い、私はCFOの直下に異動してFP&Aを担当することになりました。
FP&Aとして仕事をするようになると「親会社からこういう数字が来ているから、この数字が出るようにしてくれ」という指示が増えていきました。自分として納得していないことを相手にもとめなければならないのは苦痛でしたし、このままでは私ならではのバリューが出せないと思うようになり、3度目の転職を決意します。
監査法人の次のキャリアに。内部監査の魅力
こうして現職の日系企業に転職をされます。
morningstar:外資系企業での経験はできたので、次は日系企業で内部監査業務に従事したいと思いました。ご縁があり、2021年2月から現職に転職をしました。私自身、会計士試験に合格して20年以上経過しました。常々思うのは公認会計士の仕事は多岐にわたり、キャリアの幅が広いということ。そして、私自身は内部監査の仕事に10年以上従事してきましたが、内部監査の仕事内容である“問題を特定して、その原因を深掘りしていきペーパーにまとめて、最後は関係者に向けて説得力のある説明をする”。これは監査法人出身の公認会計士であれば活かせるということです。
だからもっと監査法人にいる公認会計士の方々に、内部監査の仕事をセカンドキャリアとして視野に入れてほしいのです。今までのキャリアで培った力を発揮できる場所ですから。
内部監査は会計領域のみを対応するわけではありませんし、あまり公認会計士の専門性が活かせないのではないかと誤解されているようにも感じています。確かに経理や経営企画より少し華やかではないかもしれませんね。だからイマイチ人気がない(笑)。しかし海外の会社の場合、例えば韓国と日本以外のアジアでは、ほとんどの内部監査がCPAです。公認会計士が内部監査をキャリアに選ぶのは普通のことなのです。世界全体で見たら内部監査は会計士がバリューを出しやすいポジションと思います。
最近は内部監査に力を入れないといけないという世の中の流れもあります。コーポレートガバナンスコードも改訂され、「日本の会社がリスクを恐れずビジネスをドライブしていかないといけない、その一方で内部的にはモニタリングできる内部監査の役割が重要だ」という内容が書いてあります。そういった社会的な要請の流れもあるので、今後存在感が増していく可能性がとても高いと思っています。
また内部監査は監査法人の仕事の延長線上というイメージを持たれている方もいますが、会計監査の手法は通じるけれども、見るべき内容は異なります。これもまた”外からの見た目”では分からないこともあり、まさにその組織に入り込み”内部”から監査をすることで違った視点が見えてきます。監査法人とは異なる新しい視点で、しかも公認会計士としての経験を活かして自分のバリューを発揮できる。内部監査は、これからの公認会計士にとって、魅力あるキャリアになっていくはずです。
【編集後記】
公認会計士のキャリアは様々。活かせる場の一つとして今回は内部監査の魅力を語っていただきました。morningstarさん、ありがとうございました!
morningstar(公認会計士)
東京大学卒。大手監査法人にて、10年ほど従事。
2009年には国家予算編成のために民主党政権が導入した行政刷新会議が行う事業仕分けに参画。外資系、日系企業において組織内会計士として内部監査業務に従事している。
現在0歳児育児中/好きな事は将棋
■Twitter:https://twitter.com/morningstar0212