3.請求人の主張

本件甲家屋及び本件乙家屋は併せて一構えの一の家屋であり、請求人は本件甲家屋及び本件乙家屋を居住の用に供していたから、本件乙家屋敷地は、本件特例が適用される請求人の居住用財産に当たる。仮に、本件甲家屋及び本件乙家屋が一構えの一の家屋に該当しないとしても、措置法通達35-4の定め[3]により、本件乙家屋敷地の譲渡による所得には、本件特例が適用される。


[3] 措置法通達35-4は、居住用家屋の所有者以外の者がその家屋の敷地の用に供されている土地等の全部又は一部を有している場合において、その家屋(当該敷地の用に供されている土地等を含む。)の譲渡に係る長期譲渡所得の金額が3千万円の特別控除額に満たないときは、その満たない金額は、次の要件の全てに該当する場合に限り、その家屋の所有者以外の者が有するその土地等の譲渡に係る長期譲渡所得の金額の範囲内において、当該長期譲渡所得の金額から控除できる旨定めている。

  • (イ) その家屋とともにその敷地の用に供されている土地等の譲渡があったこと。
  • (ロ) その家屋の所有者とその土地等の所有者とが親族関係を有し、かつ、生計を一にしていること。
  • (ハ) その土地等の所有者は、その家屋の所有者とともにその家屋を居住の用に供していること。

4.審判所の判断

(1)法令解釈

本件特例の適用対象となる家屋については、個人がその居住の用に供している家屋を二以上有する場合、これらの家屋のうち、その者が主としてその居住の用に供していると認められる一の家屋に限られる(措令23①)。これは、租税負担公平の原則から同特例の適用を政令で定めるものの譲渡に限定し、同特例の濫用による不公平の拡大を防止しようとするもので、特則、例外規定である同条項の解釈に当たっては、狭義性、厳格性が要請されているものと解される。

よって、二以上の家屋が併せて一構えの一の家屋であると認められるか否かについては、まず、それぞれの家屋の規模、構造、間取り、設備、各家屋間の距離等客観的状況によって判断すべきであり、個人及びその家族の使用状況等主観的事情は二義的に参酌すべき要素にすぎないものと解するのが相当であるから、単にこれらの家屋がその者及びその者と同居することが通常である親族等によって機能的に一体として居住の用に供されているのみでは不十分といえ、家屋の規模、構造、設備等の状況から判断して、いずれか又はそれぞれが独立の居住用家屋としては機能できないものでなければならない。

したがって、二以上の家屋がそれぞれ独立の居住用家屋としての機能を有する場合には、これらの家屋を併せて一構えの一の家屋であるとは認められず、その者が主としてその居住の用に供していると認められる一の家屋に限り、本件特例の適用対象となるというべきである。

(2)検討

審判所の認定事実によれば、本件土地上に本件甲家屋敷地及び本件乙家屋敷地を特定できる塀や障壁は存在しないものの、本件甲家屋と本件乙家屋は、それぞれ玄関、台所、風呂及び便所を備え、電気、ガス、水道及び固定電話回線の各設備を有しており、その規模、構造、間取り、設備等の状況からすれば、独立の家屋としての機能を有していたといえる。したがって、本件甲家屋と本件乙家屋は、併せて一構えの一の家屋であるとは認められず、本件特例の適用上、請求人の居住の用に供されていた家屋は、本件甲家屋のみとなることは明らかである。なお、本件乙家屋は請求人が所有する家屋ではないから、本件特例の適用上、上記(1)にある「個人がその居住の用に供している家屋を二以上有する場合」に当たらないため、請求人が主として居住の用に供していた家屋が本件甲家屋と本件乙家屋のどちらであるかを検討するまでもなく本件乙家屋敷地は、本件特例が適用される請求人の居住用財産に当たらない。

(3)本件更正処分の適法性について

原処分庁は、本件更正処分において措置法通達31の3-7《店舗兼住宅等の居住部分の判定》を準用し、本件甲家屋と本件乙家屋の合計延床面積に占める本件甲家屋の延床面積の割合により、本件甲家屋敷地に係る譲渡収入金額を算出している。しかし、同通達は、居住の用に供している家屋のうちに居住の用以外の用に供されている部分がある場合について定めるものであって、本件のように、同一の土地上に本件特例の適用対象となる家屋とならない家屋が混在しているような場合についてまで定めるものではなく、店舗兼住宅等の「等」に本件のような場合が含まれるものではないことは、その文理上明らかである。

本件特例の対象となる土地(本件甲家屋敷地)に係る譲渡所得の金額は、譲渡した土地の譲渡所得の収入金額に、各家屋における各階の登記上の床面積のうち、建築面積に近似する最も広い床面積を、両家屋の各建築面積として用いるのが合理的であり、各家屋の建築面積に近似する床面積の合計に占める本件甲家屋の建築面積に近似する床面積の割合を乗じて算出することが合理的である。そうして求めた割合を用いて、請求人の本件土地に係る譲渡収入金額を本件甲家屋敷地に係るものと本件乙家屋敷地に係るものにあん分計算し、請求人の分離長期譲渡所得の金額を計算すると、本件更正処分の金額を下回るから、本件更正処分は、その一部を取り消すべきである。