先物取引の差金等決済に係る損失の繰越控除について、措置法41 条の15 第3項が定める損失申告書提出要件を満たさない確定申告書を提出した場合、措置法通達41の15-1で救済されるのは、①更正の請求に基づく更正により損失金額があることとなった場合、かつ、②当該更正の請求が、損失発生年の翌年の確定申告書提出時までに行われた場合という判断が示されました。

国税不服審判所平成30年10月29日裁決(裁決事例集未掲載 TAINS:F0-1-1038)

1.事実関係

本件は、審査請求人(請求人)が、先物取引の差金等決済に係る損失の金額を翌年以後の複数年分において繰越控除する旨の所得税等の更正の請求をしたところ、措置法41条の15第3項所定の要件を満たしていないことから、原処分庁が、損失の金額を繰越控除することはできないとして、更正をすべき理由がない旨の通知処分をしたのに対し、請求人が、当該処分の取消しを求めた事案である。

請求人は、平成23年及び平成24年に金融商品先物取引を行ったが、差金等決済の金額は、いずれの年も損失であった(平成23年中の損失を「平成23年分損失金額」、平成24年中の損失を「平成24年分損失金額」という)。なお、平成23年分損失金額については、請求人が出資持分の95%以上を有する法人の損失として、同法人の平成23年12月期に確定申告したところ、原処分庁は、同法人が申告した所得及び損失は請求人に帰属するとして、平成27年12月18日、平成23年分損失金額を請求人の先物取引の差金等決済に係る損失の金額に算入した更正処分等(先行更正処分)を行った。

措置法41条の15第3項は、先物取引の差金等決済による損失について、①損失金額計算明細書等を添付した確定申告書を提出(損失申告書提出要件)し、かつ、②その後において連続して確定申告書を提出(連続提出要件)した場合、③繰越控除を受けようとする年分の確定申告書に控除金額計算明細書等を添付することにより、同年分の先物取引に係る雑所得等の金額を限度として、損失の繰越控除の適用がある旨規定(本件特例)している。

しかしながら、請求人は、平成23年分ないし同27年分の所得税等の確定申告につき、いずれも期限内に確定申告書を提出したものの、平成23年分及び同24年分については、翌年以後に繰り越される先物取引の差金等決済に係る損失の金額を記載せず、また、損失金額計算明細書等を添付しなかった。さらに、平成25年分ないし同27年分については、確定申告書に損失金額計算明細書等又は控除金額計算明細書等が添付されていたものの、平成23年分損失金額及び平成24年分損失金額を繰越控除したり翌年以後に繰り越したりする旨の記載はなかった。

措置法通達41の15-1(本件通達規定)は、本件特例の適用について、「損失金額計算明細書等の添付がなく提出された確定申告書につき更正の請求に基づく更正により、新たに先物取引の差金等決済に係る損失の金額があることとなった場合も含まれる」と定めていることから、請求人は、平成29年3月9日、原処分庁に対し、平成24年分ないし平成27年分の所得税等の各更正の請求を行ったところ、冒頭に述べたとおり、原処分庁より、更正をすべき理由がない旨の通知処分を受けた。