4.審判所の判断

(1)法令解釈

  • ①控除すべき債務の金額の評価について

債務控除の規定(相続税法13条1項1号、14条1項及び22条)は、相続税が財産の無償取得によって生じた経済的価値の増加に対して課せられる租税であるところから、その課税価格の算出に当たっては、相続によって取得した財産と相続人が相続により負担することとなる債務の双方について、それぞれの現に有する経済的価値を客観的に評価した金額を基礎とする趣旨のものであり、控除債務については、その性質上客観的な交換価値がないため、交換価値を意味する「時価」に代えて、その「現況」により控除すべき金額を評価する趣旨と解される(最高裁昭和49年9月20日第三小法廷判決・民集28巻6号1178頁)。

したがって、弁済すべき金額の確定している金銭債務であっても、同金額が当然に当該債務の相続開始の時における消極的経済価値を示すものとして課税価格算出の基礎となるものではなく、控除すべき金額を個別に評価しなければならない。

  • ②「確実と認められるもの」について

相続税法14条1項に規定する「確実と認められるもの」とは、相続開始日現在において単に債務が存在するのみならず、〈1〉債務者においてその債務の履行義務が法律的に強制されるもののほか、〈2〉事実的、道義的に履行が義務付けられ、あるいは、履行せざるを得ない蓋然性の表象があり、相続人がその債務を履行し相続財産の負担となることが必然的な債務をいうものと解される(広島高裁昭和57年9月30日判決・税資127号1140頁)。

(2)認定事実

税理士法人Mは、被相続人が、本件建物を請求人から譲渡により取得し、預貯金等の金融資産を本件建物に置き換えることで、被相続人に相続が発生し、請求人が本件建物及び本件債務を承継した場合、本件建物の未償却残高相当額を時価とみなして本件代金としたことで、本件建物の相続税評価額(固定資産税評価額)との間に差額が生じるとし、同差額により相続税の軽減効果が期待できる旨の本件提案を行い、請求人は本件提案に従い本件建物の譲渡等を履行した。なお、請求人は本件建物の譲渡の前後を通じて本件建物の利用状況に変更はなかった。

(3)検討

本件代金は、適正な時価として評価決定された本件通達評価額を上回るものであり、本件建物の経済的価値を大きく超えるものと推認される。そして、同超過部分を、いずれ相続の過程で混同により消滅させるべき債務として成立させ、これを相続の対象としたからといって、それが客観的にみて相続によって無償取得した財産の経済的価値を減ずるものとは認め難い。また、同超過部分は、いずれ混同により消滅させるべき債務を、いわば名目的に成立させたにすぎないものであるから、相続開始日における消極的経済価値を示すものとはいえない。

一方で、請求人は、相続により本件建物を取得しながら、本件代金のうち本件建物の経済的価値に見合う部分の債権も失うべきこととなる。それにもかかわらず、請求人が、本件相続により本件建物を取得して経済的価値が増加したと認めることは困難であるから、本件債務は、本件相続開始日における消極的経済価値を示すものと認めるのが相当である。そして、本件建物の経済的価値は、相続税の課税上は、本件通達評価額により把握されるものであり、本件相続による本件建物の無償取得によって経済的価値の増加が認められないことが、本件債務の消極的経済価値として把握されるのであるから、本件相続開始日の現況における本件債務の消極的経済価値は、本件通達評価額をもって把握するのが相当である。

以上によれば、相続開始日の現況において、確実と認められる本件債務の額は、本件通達評価額に相当する額2072万6840円となる。