第29回は、第27回と第28回に続き、IPOを目指して経営人材を採用する際の注意点である、採用後の入社前までで注意するべき3つの点について解説します。経営人材の採用は重要かつ難易度も高いため、本稿を参考にして、採用を決定した後、入社前までの時間を有効活用していただければ幸いです。

本稿における経営人材の定義は第27回第28回と同様、取締役と執行役員を想定しており、COO、CFO、CTO等のCXOも含めています。経営人材の採用は何回も経験することではないため、非常に難しく、失敗してしまうことも多々あります。経営人材として成果への期待が高かったにも関わらず、期待する成果を出せずに1年も経たずに退社することとなったというケースは多いです。そういった方の中には、入社後、自身の成功体験や誤った認識でものごとを進めてしまい、短期的に経営者のみならず、社員からの信頼も失ってしまう方がいます。このようなことを防止するためにも、以下で、経営人材を採用後、入社前までで注意するべきポイントを解説しますので、参考にしてください。

1.入社までに経営者と定期的にコミュニケーションを取る機会を設ける

経営人材として入社する以上、経営者と密なコミュニケーションを取りましょう。本稿においては経営者が株式を過半数以上所有していること、つまり会社を所有していることを想定していますので、その前提で進めます。参考として紹介しますが、経営者が株式を過半数以上所有していない雇われ社長の場合は、実際の会社所有者と密なコミュニケーションを取りましょう。会社所有者の考え方と齟齬があると、突然はしごを外されてしまうおそれがあります。

 

経営者とコミュニケーションを取る頻度は、経営者の状況に応じて柔軟に調整しましょう。コミュニケーションを取る機会を多く設定すると経営者の負担にもなってしまうため、「会話する→方針を立てる→確認する」といったサイクルを、スピード感持って回せる頻度で設定しましょう。経営者によっては経営人材の動き方、スピード感、提案力を注意深く見ていることもありますので、「入社することを約束したその瞬間」から入社まで評価されていると考えて行動しましょう。スピード感とコミット感を全面に出して行動することで損することはありません。

2.入社までに経営陣やキーパーソンとなる社員とコミュニケーションを取る機会を設ける

経営者とコミュニケーションを取ることで、経営陣との関係性等含めて、社内の状況が少しずつ見えてきます。経営陣の中にも、経営者からの信頼が厚い方、一方、経営者からの信頼が薄い方、さまざまです。まずは経営者からの信頼が厚い経営陣とコミュニケ-ションを取り、経営者とは違った視点で、会社のことや経営者のこと、現在の課題について会話しましょう。経営者と経営陣の考えが全く同じということは稀であり、認識に多少の相違があるはずです。その場合は、自身の経験からどちらを採用することが正しいのか、判断する必要があります。

 

経営陣とのコミュニケーションと並行して、キーパーソンとなる一般社員とのコミュニケーションも進めましょう。経営者や経営陣とのコミュニケーションのみならず、社員とコミュニケーションを取る理由は、実務レベルでの推進を意識する必要があるからです。経営人材として入社する以上、何かしら重要性が高い事項を推進していくことになります。その際、社内のキーパーソンと協力する必要がありますので、キーパーソンをないがしろにするようなことは無いようにこころがけましょう。経営人材は、より多くの人に動いてもらうことが必要ですので、最初に誰を抑える必要があるか見誤らないようにしましょう。