2.業務費用
次に費用に目を向けてみます。
(1) 業務費用推移
2022年度の業務費用は1,061億円となり、前期比27億円増加(+2.6%)となっています。
売上の増加に比例して費用も増加しており、2018年度からのCAGRは+2.2%と、売上のCAGR+1.8%を超えています。
売上に占める業務費用の割合(業務費用比率)では、2022年度は99.7%となり、コスト増が増収を上回ったことで前期比0.3%上昇しています。
* 業務費用比率=業務費用÷業務収入
ここ5期を見ると2018年度(98.2%)を除く2019~2022年度は99.5%程度と高い割合を示しており、売上のほとんどを業務費用が占めてしまっています。
新日本は業務費用を「人件費」「人材開発費用」「施設関連費用」「IT及び通信費」「その他業務費用」の5つに分類しています。
そのうち「人件費」は業務費用の7割を占める最大のコストとなっています。
次に「人件費」の推移を見てみます。
(2) 人件費推移
2022年度の人件費は686億円となり、前期比9億円減少(△1.3%)となっています。
増収決算にもかかわらず主要コストの人件費は減少していますが、附属明細書を見ると「2021年10月1日付で、その他の事務職員等が、EY Japan株式会社に転籍している。転籍後の人件費相当額は、転籍後の勤務形態により、人件費またはその他の業務費用の業務委託費として計上している。」とされており、従来人件費としていた費用の一部が業務委託費(その他業務費用)となっていることが示されています。
当該影響により前期との単純比較はできなくなっていますが、業務委託費が19億円増加していることを考えると、実際のところ人件費としては増加しているのかもしれません。
続いて人件費の内訳を見てみます。
(単位:百万円)
2021年6月期 | 2022年6月期 | 増減額 | 増減率 | |
報酬給与 | 47,795 | 47,222 | △573 | △1.2% |
賞与 | 9,666 | 9,913 | 247 | 2.60% |
退職給付費用 | 4,160 | 3,747 | △413 | △9.9% |
法定福利費 | 6,441 | 6,424 | △17 | △0.3% |
福利厚生費 | 987 | 812 | △175 | △17.7% |
支払業務報酬 | 405 | 454 | 49 | 12.10% |
人件費 計 | 69,457 | 68,574 | △883 | △1.3% |
2022年度は賞与が2億円増加する一方、報酬給与が6億円、退職給付費用が4億円、福利厚生費が2億円減少しています。
各種の人件費が減少する中で賞与が増加している点が目立ちます。
続いて人員数と1人当たりの人件費に分けて見てみます。
(3) 人員数推移
2022年度の人員数は5,566人、前期比120人減少(△2.1%)となり、EY Japan株式会社への転籍の影響が見て取れます。
4期前の2018年度と比べると12人減少(△0.2%)であり、大きな変動はありません。
人員の内訳を見ていきます。
(人員数内訳)
2018年 6月末 |
2019年 6月末 |
2020年 6月末 |
2021年 6月末 |
2022年 6月末 |
||
社員
|
公認会計士 | 528 | 521 | 527 | 513 | 514 |
特定社員 | 12 | 11 | 10 | 10 | 8 | |
構成員
|
公認会計士 | 2,584 | 2,519 | 2,445 | 2,408 | 2,388 |
公認会計士試験合格者等 | 1,049 | 1,074 | 1,160 | 1,255 | 1,274 | |
監査補助職員 | 647 | 652 | 752 | 753 | 849 | |
その他の 事務職員等 |
758 | 715 | 660 | 747 | 533 | |
合計 | 5,578 | 5,492 | 5,554 | 5,686 | 5,566 |
社員については前期比で大きな変動はありませんが、2018年度との比較では公認会計士が14人減少(△2.7%)、特定社員が4人減少(△33.3%)となっています。
社員を除く構成員を見てみると、前期比では監査補助職員が96人増加(+12.7%)、公認会計士試験合格者等が19人増加(+1.5%)する一方、その他の事務職員等が214人減少(△28.6%)、公認会計士が20人減少(△0.8%)となっています。
2018年度との比較ではその他の事務職員等が225人減少(△29.7%)、公認会計士が196人減少(△7.6%)となったのに対して、試験合格者が225人増加(+21.4%)、監査補助職員が202人増加(+31.2%)となっています。
(4) 1人当たり報酬給与・賞与推移
* 1人当たり報酬給与・賞与=(報酬給与+賞与)÷(期首期末の平均人員数)
2022年度の1人当たり報酬給与・賞与は1,016万円となり、前期比7万円減少(△0.7%)と僅かにダウンしています。
2019年度以降は9百万円~1千万円程度で推移しており、2022年度もその範囲に収まっています。
(5) その他
項目別の業務費用推移を見てみます。
(単位:百万円)
2018年 6月期 |
2019年 6月期 |
2020年 6月期 |
2021年 6月期 |
2022年 6月期 |
|
人件費 | 63,319 | 65,280 | 66,830 | 69,457 | 68,574 |
人材開発費用 | 1,233 | 1,523 | 1,922 | 1,096 | 1,565 |
施設関連費用 | 5,518 | 4,445 | 4,272 | 3,935 | 3,853 |
IT及び通信費 | 5,816 | 6,526 | 6,573 | 7,161 | 7,553 |
その他業務費用 | 21,231 | 21,146 | 21,987 | 21,765 | 24,598 |
合計 | 97,119 | 98,921 | 101,586 | 103,416 | 106,144 |
人件費を除くと、その他業務費用が前期比28億円増加(+13.0%)、人材開発費用が5億円増加(+42.8%)、IT及び通信費が4億円増加(+5.5%)となっています。
その他業務費用では業務委託費が19億円増加(+12.6%)、諸会費が4億円増加(+10.4%)、人材開発費用では採用費が3億円増加(+47.4%)、またIT及び通信費では諸会費が5億円増加(+10.9%)と、それぞれ大きく伸びています。
以上より業務費用をまとめると、人件費が9億円減少した一方でその他業務費用(28億円増加)、人材開発費用(5億円増加)、IT及び通信費(4億円増加)が増加したことにより、全体として27億円の費用増(+2.6%)となっています。
また業務費用の増加が増収幅(+2.3%)を上回ったことで業務費用比率は上昇、営業利益率は低下し、営業減益決算となっています(「4.利益 (1) 営業利益、営業利益率推移」参照)。
3.営業外収益費用、特別損益
(単位:百万円)
2018年 6月期 |
2019年 6月期 |
2020年 6月期 |
2021年 6月期 |
2022年 6月期 |
||
営業外収益
|
受取利息及び配当金 | 131 | 126 | 50 | 50 | 80 |
その他営業外収益 | 437 | 437 | 508 | 530 | 554 | |
合計 | 568 | 563 | 559 | 580 | 635 | |
営業外費用
|
支払利息 | 12 | 6 | 5 | 5 | 5 |
その他営業外費用 | 38 | – | 68 | 16 | 0 | |
合計 | 51 | 6 | 74 | 22 | 5 |
2022年度は営業外収益、営業外費用とも大きな変動はなく、また特別損益項目の計上もありません。
なお2021年度は退職給付制度の改定に伴い特別利益3億円が計上されています。
4.利益
続いて利益について見ていきます。
(1) 営業利益、営業利益率推移
2022年度の営業利益は3億円、営業利益率は0.3%となり、前期比3億円減少(△53.9%)と半減しています。
2022年度は監査、非監査ともに増収決算だったものの、その他業務費用を中心にコストが増加したことで大幅な営業減益決算となっています。
これに伴い営業利益率も前期0.6%から半減した0.3%となっており、ここ5期でみると最も低くなっています。
(2) 当期純利益、当期純利益率推移
5.その他
ここまで損益計算書を中心に見てきましたが、それ以外の項目についても見ていきます。
(1) 配当
新日本は無配です。
(2) 偶発債務
注記表には、引き続き東芝の監査に関する1兆円の株主代表訴訟等を抱えている旨が記載されています。
なお2021年度から係争案件の内容の記載(原告、請求額等)に変更があります。
(2021年度)
(2022年度)
最後に
監査売上で業界トップをキープし、3期連続で業務収入1千億円を超えるEY新日本有限責任監査法人について、2022年度の損益計算書を中心に決算を分析しました。
売上の面では、継続的な単価の上昇や監査クライアントの反転増加を主因として過去2番目の売上を記録しています。
利益面では業務委託費、人材開発費用、およびIT及び通信費の増加等により営業減益決算となる一方、税負担額の減少等により当期純利益ベースでは増益決算となっています。
ただし営業利益は3億円、当期純利益は4億円にとどまっており、低利益体質は変わりません。
市場が拡大する非監査で売上が伸びない中、今後も監査業務をドライバとして成長を維持できるか注目です。
【参考・出典】
*1 「第23期 業務及び財産の状況に関する説明書類」、EY新日本有限責任監査法人
*2 「令和4年版 モニタリングレポート」、公認会計士・監査審査会
*3 「EY新日本、IPO監査実績5年連続首位」(2022/12/16)、EY新日本有限責任監査法人
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