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酒井克彦の「税金」についての公開雑談~深川渡しと信義誠実の原則~

信義誠実の原則(信義則)には、法律の定めがない場合にその空白域を埋める「補完」機能や個別規定の形式的適用が法律の趣旨に合致していない場合に「修正」を加える機能があります。それは深川渡しという古い事例から確認することができます。このような信義則の機能は租税法律主義の下でも認められるのでしょうか。

東京隅田川に架かる永代橋は、元禄11年に「深川の渡し」として設けられ、明治30年に現在の場所に移されましたが、関東大震災で大破したそうです(その後、昭和3年に現在の橋に架け替えられました)。この「深川の渡し」という言葉は、いわゆる大豆粕深川渡し事件(大審院大正14年12月3日判決・民集4巻685頁)として、民法の学習をしたことがある人にとっては馴染み深いでしょう。

大豆粕深川渡し事件

ある大豆粕の取引の契約において、その引渡場所が「深川の渡し」とされていました。「深川の渡し」とは商慣習上、売主指定の深川所在の倉庫又は付近の艀船繋留河岸で引渡しを行うことを指していました。ある買主(A)が大豆粕を売ってほしいと売主(B)にもちかけ、売主(B)が買主(A)のこの申入れを承諾することで売買契約が成立しましたが、売主(B)は、深川の渡しで大豆粕を引き渡すとしたものの、その際に深川のどの倉庫又は河岸かの指定をしませんでした。当時、大豆粕の相場が下落したことがあり、実は買主(A)は引き取りたくなかったことから、具体的な引渡場所である倉庫の指定もないとして商品の引取りに行きませんでした。これに対して、売主(B)が、損害賠償を請求したという事例です。

判決は、仮に買主が引渡場所を知らなくても、売主は引渡しの準備をして通知すれば、買主には信義則上売主に対する協力義務があり、売主に問い合わせることが必要で、これを買主が怠れば、遅滞の責任を負うとしました。
要するに、買主(A)が売主(B)に対して引渡場所を確認すればよかったとして、引渡場所を教えなかった売主(B)ではなくそれを問い合わせなかった買主(A)に責任があるとしたのです。

これは、いわば制定法上の不備が原因で起きた事例であるともいえます。

信義則の機能

このような場合に認められるのが、信義則の「法具体化機能」といわれるものです。これは、制定法の枠内でその不備を補充し、制定法を意味適合的に具体化する機能です(菅野耕毅『信義則の理論―民法の研究Ⅳ―』19頁(信山社2002)参照)。そのほか、信義則には、制定法外の根拠により権利行使に倫理的振舞いを要請し、実質的正義・衡平を実現する「正義衡平的機能」、制定法の適用が社会の進展によって妥当でなくなった場合に制定法を修正する「法修正的機能」、時代の問題性に適合させるべく制定法に反して新しい方法を創造する「法創造的機能」があるとされています(管野・同書19頁)。

星野英一教授は、「法律の規定を具体的な場合にそのまま形式的に適用すると妥当な結果の得られないときに、妥当な結果を導くために援用される。つまり、契約や法律によるとこういう権利義務がある(ない)が、信義則によりそれがない(ある)とするのである」と述べています(星野『民法概論Ⅰ〔序論・総則〕』77頁(良書普及会1990))。これは、規定の解釈適用を「修正」する機能だといえます。

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