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酒井克彦の「税金」についての公開雑談~空間的・時間的拘束という給与所得該当性の判断要素~

所得税法上の給与所得該当性について、過去の判例・学説は、給与所得とは空間的・時間的拘束の下で使用者の指揮命令に服してなされた役務に対する対価と理解してきました。しかし、働き方改革が叫ばれている今日、そのような捉え方は妥当なのでしょうか。

テレワークなどの実態

総務省「平成27年通信利用動向調査」(2016年)によると、企業のテレワーク導入率は現在16.2%となっているようです。資本金規模が大きくなるほど導入率は高くなる傾向があり、資本金50億円以上の大手企業での導入率は4割を超えているとのことです。平成25年の同調査によれば、テレワーク導入率は9.3%だったといいますから、ここ数年の増加傾向が分かります。

また、国土交通省都市局都市政策課「平成26年度テレワーク人口実態調査-調査結果の概要」(2015年)によると、テレワーカーは全国で1070万人と推定されています。推定人数の結果こそ前年比から50万人の減少となったようですが、決して少ない数字でないことは明らかであり、「自宅で働く」人が増えていることに異論を唱える余地はなさそうです。

加えて、「BPO市場・クラウドソーシング市場に関する調査結果2016」(矢野経済研究所、2016年)によると、クラウドソーシングの市場規模は、2011年度の40億円に対して2016年度には950億円の見込みとなるなど、急激に成長しています。

「オフィスに通わない働き方」は、通勤時間をゼロにする、その分の時間を効果的に使える、はたまた通勤時の交通機関での移動に伴う二酸化炭素(CO2)削減に繋がるなど、個人にとっても企業にとっても、また社会にとってもメリットがあるといわれることがあります。実際に、テレワークを実践している人は「集中できる」「非拘束時間ができる」といったメリットをあげています(出典:「平成25年度テレワーク人口実態調査-調査結果の概要」)。

このように、オフィスに通わないテレワークなどの働き方が浸透していくことにより働き方が多様化していくと、これまでの給与所得概念に変更が迫られることになりはしないでしょうか。

最高裁の「給与所得」の捉え方

最高裁昭和56年4月24日第二小法廷判決(民集35巻3号672頁)は、「事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反覆継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得をいい、これに対し、給与所得とは雇傭契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいう。なお、給与所得については、とりわけ、給与支給者との関係において何らかの空間的、時間的な拘束を受け、継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり、その対価として支給されるものであるかどうかか重視されなければならない。」と判示しています。

このように、給与所得とは、雇用契約等に基づく指揮命令の下で、給与支給者との関係において何らかの空間的・時間的拘束を受けるような環境の下で提供される労務の対価をいうとするのですが、一般的に給与所得該当性の「従属性要件」などと言われています。

この判決は、極めて有名なもので、多くの裁判例が参考としてきた判例であるといえます。

しかしながら、かかる判例の指摘するところと、近時の働き方の多様性とは、必ずしも相いれないものとなっているのかもしれません。すなわち、従来、想定されていなかったテレワークのような勤労形態に基づく所得は、上記判例にいう「従属性要件」からみれば、もはや給与所得とはいえないように思われますし、それでもなお、これを給与所得とみるならば、「従属性要件」自体が給与所得該当性の要件としてはすでに重要な意味を有しないのかもしれません。

このような視角から、近時議論されている働き方改革を眺めてみると、新たな租税法理論の必要性を感じさせるものがあります。

著者: 酒井克彦

中央大学商学部教授 兼 法科大学院教授/法学博士

中央大学商学部教授。法学博士。現在、税務会計論・租税法などを担当。一般社団法人アコード租税総合研究所 所長、一般社団法人ファルクラム 代表理事。単著に『スタートアップ租税法〔第3版〕』、他7冊のアップシリーズ、『所得税法の論点研究』(財経詳報社)、『裁判例からみる所得税法』(大蔵財務協会)、『レクチャー租税法解釈入門』(弘文堂)、『プログレッシブ税務会計論Ⅰ、Ⅱ』(中央経済社)など。その他、論文多数。
■一般社団法人アコード租税総合研究所
http://accordtax.net/
■一般社団法人ファルクラム(FULCRUM)
http://fulcrumtax.net/

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