わが国の相続税法は、遺産取得課税方式の考え方に基づく「法定相続分課税方式」を採用しています。亡くなった人(被相続人)ではなく、遺産をもらう人(相続人)に着目して課税するこの課税方式には、種々の問題点が指摘されています。現在、寄与分に応じた相続分が民法改正において議論されている中にあって、寄与分などには関わりなく相続税額が確定される「遺産課税方式」への転換が議論されるべきではないでしょうか。
現行の相続税課税方式の問題点
現在、相続税の課税方式に対する見直しの議論は小休止の状態にありますが、現行の課税方式である「法定相続分課税方式(遺産取得課税方式)」から「遺産課税方式」への転換の議論が展開されるべきだと考えます。
わが国の相続税法は、明治38年の同法創設以来、「遺産課税方式」を採用してきましたが、昭和25年に「遺産取得課税方式」に改められ、昭和33年には「法定相続分課税方式」を導入した「遺産取得課税方式」が採用され今日に至っています。
「法定相続分課税方式」は、各人の課税価格を合計した相続財産総額を基にいったん法定相続分で税額の総額を算出した後、その総額を各相続人の実際の相続割合で按分して個々の負担税額を決定する方法です。同方式は累進税率の緩和を狙った仮装分割への対応や、分割困難な資産相続への配慮といった観点に立っているものの、連帯納付義務制度の説明が難しいなどの理論的問題も包摂しています。
そのほかにも、例えば、
①他の相続人が取得したすべての財産、要するに遺産のすべてを相続人の皆が把握しなければ税額計算ができないという問題があります。その結果、例えば、被相続人から親族以外の者が遺贈を受けているケースで、それが隠ぺいされていた場合、隠ぺい・仮装に基づく相続税の申告がなされたこととなり、すべての相続人が重加算税の賦課を受けなければならないことになります。
②また、取得した財産が同額でも相続人の数によって税額が異なる場合があり、理解されにくい制度ともいわれています。
③さらに、居住や事業の継続に係る特例規定の適用を、ある相続人が受けると、これによりそれらに無関係な共同相続人の租税負担まで緩和されるなどの問題があります。課税ベースの拡大が模索される今日において事業用資産等を相続しない者にまで控除の恩典を与えてしまうのは大きな問題といえます。