遺産課税方式のメリット

これに対して、「遺産課税方式」は、被相続人の遺産総額を課税対象とするものですから、被相続人の残された財産に対して、所得税の補完税として相続税が課されるという理論的整理がなされています。いわば、被相続人の所得税の最終的な清算と位置付けることができます。英米系の国で採用されているこの制度は、「人は生存中に蓄積した富の一部を死亡にあたって社会に還元すべきである」という考えに基づいて課税する仕組みといえます。この制度であれば、上記①~③のような不合理がなくなるばかりでなく、次のような利点も見い出せます。

①「遺産取得課税方式」は、遺産の取得者に対してその取得額に応じて課税する仕組みであり、その取得者は相続人や受遺者たる個人に限られるため、法人が遺贈により取得した財産は法人税の課税対象となるだけで相続税の課税対象から外れることになります。そこで、非営利法人や人格のない社団等に財産を移転することによる相続税逃れを防止する観点から、これらの法人に対して相続税等を課税する制度(相法66)が設けられていますが、「遺産課税方式」であれば、遺産そのものが課税対象ですから、遺産の受け手の法的人格(個人か法人か、営利法人か非営利法人か)を問う必要はなくなります。

②遺産分割に関係なく遺産の総額によって相続税の税額が定まるため、課税の執行が容易になります。特に、信託の場合、受益権を分割し、例えば、収益受益権と元本受益権とを分割して別々の者が相続した場合、それぞれの受益権の評価を行う必要性が生じ、財産評価の面で困難な問題を生ずることとなりますが、「遺産課税方式」であれば、遺産総額を把握すればその分配にまで立ち入らずに課税できるため、信託受益権の評価についても全体を捉えて行うことができ、課税執行が比較的容易です。

もちろん課税方式の大幅な変更は容易ではありません。また、現行の課税方式のデメリットのみを殊更強調して論を進めることも当然避けなければならないでしょう。しかしながら、相続税も、基礎控除額の改正など課税ベースの拡大傾向にある今日において、遺産課税方式への転換を改めて議論する必要性が増しているといえるのではないでしょうか。