ルノアールの名画「ムーラン・ド・ラ・ギャレット」は相続税の物納のためにフランス政府のものとなりました。我が国では、ルノアールの絵画を巡って、2つの有名な租税訴訟が発生しています。どうやらルノアールの絵画は租税紛争の種になるようです。

ルノアールと税金の不思議な繋がり

パリ・モンマルトル地区にあるムーラン・ド・ラ・ギャレット。絵画好きの人ならパリで必ず訪れる名所です。ピエール=オーギュスト・ルノワール(Pierre-Auguste Renoir)が同所を描いた「ムーラン・ド・ラ・ギャレット」は、印象派絵画の中でも最も優れた傑作のひとつと言われています。この作品は、これを所有していたフランスの画家ギュスターボ・カイユボットが死亡した際に、相続税の物納によりフランス政府のものとなったことをご存知でしょうか。この絵画がパリのルクセンブルク美術館、オルセー美術館などに展示されていたのにはそうした背景があるのです。

さて、ルノアールの絵画は、我が国においても税金絡みで話題になることがあります。

たとえば、東京地裁昭和56年6月29日判決(判時1016号3頁)の事案では、ルノアールの絵画の売却収益を含む所得の逋脱が問題とされました。同地裁は、「弁護人は被告人においては株式取引にかかる売買益以外のその余の所得についても逋脱の犯意を欠き、不正行為に当たると見得る行為もなく資産の隠匿もないと主張する。しかしながら、…昭和46年分にかかる譲渡所得や、同46、47年分にかかる配当所得、及び貸付金利息、受取手数料等について、…被告人はその存在を知悉しており、しかも、所携の手帳に譲渡所得たるルノアールの絵画の売却によって計算上少なくとも100万円位の利益が出ることを自らメモ…している事実が認められ、かつ、右の事実を知っていながら顧問税理士に対し各確定申告提出に際し右所得を申告するよう指示しなかったのであるから、以上の事実によれば、被告人において右所得の存在を充分知悉しながら、あえてこれを除外したまま申告に及んだものと認められるので、それは被告人が所得金額をことさら過少に記載した内容虚偽の確定申告書を提出したこととなり、従って、そのこと自体で『偽りその他不正の行為』に当たることとなる。」と説示しています。