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相続税 上場株式等が物納順位の最上位に格上げ

相続税を金銭で納税できないときに、土地や建物などの“モノ”により納税することを「物納」という。3月27日に成立した平成29年度税制改正では、この物納財産の優先順位の変更が行われ、上場株式が不動産などと同格の最優先順位に繰上がり、物納時に株式で納めることが容易となった。

相続税の納付期限は、相続税申告書の提出期限と同日とされている。その相続税の申告は、被相続人が亡くなった日の翌日から10カ月以内。それも、金銭での一括納付が原則だ。たとえば、平成29年1月1日に亡くなったとしたら平成29年11月1日が期限となる。もし、相続税の申告を怠ったら「延滞税」がかかるのだが、金銭で一括納付が困難なときは、年賦で納付ができる「延納」がある。そして、相続税を延納するにあたって、現金で納付することが困難な場合は、納付を困難とする金額を限度に一定の相続財産を限度として、不動産や有価証券等の資産による物納が認められる。ただ、この物納制度には要件がいくつかあり、その要件をすべて満たす必要がある。
国税庁の物納申請状況によると、平成27年度の物納申請件数は130件、その金額は69億円となっており、この15年超の間は件数・金額とも減少傾向にある。
物納においては、納付すべき相続税額の課税価格計算の基礎となった相続財産(その所在が日本国内にあること)のうち、物納可能財産と順位が以下の通り決められているため、物納可能財産が複数ある場合は、その順位に従って相続財産を物納しなければならず、不動産と株式を相続したときは、株式を先に物納財産に指定することはできない。

<改正前の物納順位>
第1順位 ①国債、地方債、不動産、船舶
②不動産のうち物納劣後財産に該当するもの
第2順位 ③社債(特別の法律により法人の発行する債券及び出資証券を含むが、短期社債等は除く)、株式(特別の法律により法人の発行する出資証券を含む)、証券投資信託又は貸付信託の受益証券
④株式のうち物納劣後財産に該当するもの
第3順位 ⑤動産

※ 1 物納劣後財産とは、他に物納に充てるべき適当な財産がある場合には、物納に充てることができない財産のこと。また、境界が明らかでない土地等の「管理処分不適格財産」や、財産の生前贈与を受けて相続時精算課税又は非上場株式の納税猶予を適用している財産は、物納対象にはできない。
2 「美術品の美術館における公開の促進に関する法律」に定める登録美術品のうち、その相続開始の時において、すでに同法による登録を受けているものは一定の書類の提出により物納できる。

上場有価証券等が第1順位に格上げ

物納の財産と順位についての見直しは、金融庁が「上場株式等の相続税評価の見直し等」の1つとして平成29年度税制改正要望に盛り込んだものが認められたもの。
改正前の物納順位等は、昭和22年の相続税法施行細則で定められた(現在は相続税法41条)が、これまで社債や株式をあくまで“投機的なもの”との位置付けから、国債、地方債、不動産、船舶より順位を低く設定されていた。しかし、経済状況や国民の資産形態等も変化してきたため、金融庁は株式の物納順位を不動産や国債と同じにすることで、相続時の納税において、株式を柔軟な資産として取り扱えるとともに、保有しやすくすることで投資家の株式離れが助長されないよう見直しを求めていた。
具体的な見直しとしては、まず、物納できる財産の順位について、株式、社債及び証券投資信託等の受益証券のうち金融商品取引所に上場されているもの等を国債や不動産等と同じ第1順位に格上げる。これにより、株式等の物納においては、上場と非上場の2つに分類される。
また、投資証券等のうち金融商品取引所に上場されているものなどを第1順位として新たに追加した。投資証券とは、会社型投資信託と呼ばれているもので、一般的には投資法人の社員の地位(投資口)を表す証券等で、株式会社の株式に相当、上場投資証券は東京証券取引所の上場規則改正により平成26年から上場が解禁された。ちなみに、上場されている商品としてメジャーなものとしては「J-REIT」が挙げられる。

<改正後の物納順位>
第1順位 ①国債、地方債、不動産、船舶、上場の社債(特別の法律により法人の発行する債券及び出資証券を含むが、短期社債等は除く)、株式(特別の法律により法人の発行する出資証券を含む)、証券投資信託又は投資信託の受益証券等
②不動産のうち物納劣後財産に該当するもの
第2順位 ③非上場の社債(特別の法律により法人の発行する債券及び出資証券を含むが、短期社債等は除く)、株式(特別の法律により法人の発行する出資証券を含む)、証券投資信託又は貸付信託の受益証券
④株式のうち物納劣後財産に該当するもの
第3順位 ⑤動産

株価下落でも相続時評価額で物納

改正により上場株式等が第1順位とされたことから、たとえば、相続した実家が今後値上がりする可能性があれば、これに代わって上場株式等を物納することで、実家を手元に残すことができる。さらに、物納財産の収納価額は相続時点の時価(相続税評価額)によるとされていることから、万が一、申告期限までに株価が下がり続けた上場株式でも相続開始日の株価で物納できる(株価が上がった場合は、売却して相続税分のみ支払う)。しかし、このようなメリットがある一方、物納劣後財産に該当する不動産と上場株式を相続した場合には、これまでのように物納劣後財産に該当する不動産を先に物納することが出来なくなった。
なお、今回の見直しは納税者だけではなく、国税当局にとってもメリットがある。というのも、国税当局としては、物納されただけで換金できなければ国庫に税収が入ったことにはならず、いわゆる滞納税額となるため、換金しにくく管理も手間がかかる不動産よりも、換金しやすい上場株式等を物納財産として受け入れれば、滞納税額の減少にもつながるわけだ。

著者: イーター侍

税金ライター/元税金専門誌編集者

四半世紀以上、税金専門誌の編集者として国税庁、国税局、税務署、会計事務所に出入りする。数年前に独立した後、編集者時代に築いた人脈をいかし、ネットワークビジネスを手がける。その傍ら、趣味と副業を兼ねて税務関係ニュースを追いかける“中年ライター”だ。

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