世界レベルで社会に大きな問題を投げかけた「パナマ文書」の公開から1年以上たち、各国の税務当局による調査が積極的に行われています。昨今、日本での税務調査の状況が新聞報道で明らかになりました。

■「パナマ文書」とは

パナマ文書とは、パナマにある法律事務所「モサック・フォンセカ」から流出した内部文書で、世界の富裕層や著名人によるタックスヘイブン(租税回避地)を使った節税の実態を暴露したものである。

このパナマ文書は、2015年8月、ドイツの有力紙のひとつである「南ドイツ新聞」の記者が匿名の情報提供者から入手したもので、その後、世界各国の報道機関などが加盟する国際調査ジャーナリスト連合(ICIJ)に提供され、80カ国、約400名のジャーナリストが分析に加わり、2016年4月3日、ホームページで公開された。

このパナマ文書をきっかけに、各国の税務当局は調査を進め、約80カ国で数千億円が追徴の対象になったと言われている。

■日本での税務調査の状況

平成29年8月24日付朝日新聞で、パナマ文書を端緒とした国税当局による調査の状況が報道された。

パナマ文書 国税当局の調査
国内 31億円申告漏れ世界の富裕層によるタックスヘイブン(租税回避地)の利用実態などを明らかにした「パナマ文書」に名前があった日本関連の個人や法人について、日本の国税当局が調査を行い、今年6月までに所得税など総額31億円の申告漏れがあったことがわかった。ほかに自主的に数億円規模の修正申告をした個人も複数いたとされ、パナマ文書をきっかけに把握した申告漏れは少なくとも40億円弱に上るとみられる。この中には、携帯電話・OA機器販売会社(東京)のA会長が、パナマ文書に記載された英領バージン諸島の法人の株式譲渡をめぐって約3億7千万円の申告漏れを指摘された事案も含まれているとされる。パナマ文書は欧米など世界各国で税務調査などの端緒になったが、国内で具体的な課税事案が明らかになるのは初めて。関係者によると、国税当局は昨夏以降、パナマ文書に絡む税務調査に本格的に着手。今年6月までに関連する個人や法人について全国で数十件の調査を行なった模様だ。調査対象は個人だけでなく、その個人が代表となっていた関連法人なども含まれているという。[・・・]

パナマ文書関連の調査は7月以降も続いているとみられ、申告漏れの指摘額は増える可能性がある。

日本の国税局は近年、富裕層や国際課税への取組みを重要課題と位置づけ、積極的に調査を実施していく方針を明確に打ち出している。そのために不可欠なのは「情報リソース」を充実させることであり、「パナマ文書」も貴重な情報源となっているようだ。

■パナマとはどんな国なのか

では、パナマ文書で一躍注目を浴びたパナマとはいったいどんな国なのだろうか。

パナマは人口約400万人の小国である。パナマでは1914年に太平洋とカリブ海を結ぶパナマ運河が開通した。同年に第一次世界大戦が勃発し、船舶規制が世界的に強まる中、パナマは逆に規制を緩和し、海外からの投資を招き入れた。今でも便宜置籍船としてパナマに船籍を置く海運会社は多い。

更に1927年には外資誘致のためパナマに本拠を置いても国外での収益には課税しない法制度を作り、これが実体のないペーパーカンパニーを呼び込むことに繋がった。

外資を呼び込んでも法人税や所得税収入は得られないが、会社設立手続きに関わる業務手数料収入が見込める。設立手続きを行う法律事務所や弁護士、会計士などの専門家の働き口を生み出せるメリットもある。パナマの場合、運河の通航料も大きな収入源となっているようだ。

■「タックスヘイブン」とは

タックスヘイブンは、英語ではtax haven(租税回避地)であって、言葉は似ているがtax heaven(税金天国=タックスヘブン)ではない。一般に、税率が他の国に比べて著しく低いか、課されない国や地域を指す。パナマや英領バージン諸島、ケイマン諸島、バハマなどカリブ海周辺の国々がよく知られている。香港やシンガポールといった税率の低い国・地域を指すことも多い。目立った資源や産業がない小国が多いのが特徴で、こうした国にとって税率ゼロや低税率は海外資本を引き付ける武器となった。

規制が緩く、簡単な手続きで会社が設立できるため、大企業や富裕層が実体のないペーパーカンパニーを設け税金を逃れているケースが多い。徹底した秘密主義も特徴の一つである。タックスヘイブンに開設した銀行口座の情報や設立した会社の情報は厳格な法律で守られているため、税務当局が実態をつかみにくいのが実情である。複数の口座を経由することで資金の流れを追うことが難しくなり、マネーロンダリングなどの犯罪の温床にもなりやすいとも言われている。

■進展するタックスヘイブンとの情報交換

タックスヘイブン国も批判を受けて近年では情報提供を始めている。

これまで日本が締結した情報交換協定(タックスヘイブン等を相手国とした情報交換に特化した協定)の相手国は次の通りである。

バミューダ、バハマ、ケイマン、マン島、ジャージー、ガンジー、リヒテンシュタイン、サモア、マカオ、英領バージン諸島、パナマ

パナマとの協定も平成29年3月に発効した。パナマ文書問題の広がりを背景に、パナマが租税回避の温床になっているとの国際的な批判を回避するために急遽合意したものと言われている。こうしてタックスへイブンとの情報交換ネットワークも着実に拡大している。