183日ルールと、90日ルール

木田さんはゆっくりとした口調で、さらに説明を続けた。

「租税条約は、その国で納税する必要があるかという判断を2段階で行います。まず第1段階では、それぞれの国の国内法を見ます」

「はぁ」

「たとえば、カナダに出張に行きますよね。カナダで働いた日数分の給料は、実はカナダの源泉所得なのです。カナダの源泉所得がある場合、カナダの国内法だけを見ると、非居住者であっても、カナダへ申告納税の必要があるのです。原則、カナダの源泉所得があったら、カナダで納税する必要があると思っていただいて構いません」

「そうなんですか」

「この次に、第2段階に進みます。もし相手側の国が日本と租税条約を締結している国である場合、“納税しなくてもいい”という結論に、180度転換できる可能性があります。カナダの場合、日本と租税条約を締結しているので、それを参照することができます」

「なるほど」

「カナダにとって、圭亮さんは”非居住者”ですね。そこに住んでいるわけではないという意味です。条約締結国の居住者(日本に住んでいる人)が、カナダの非居住者で(カナダに住んでいない)、かつカナダに源泉のある給与所得がある場合、カナダ滞在日数が183日以下で、かつその他の条件を満たすと、特別にカナダで免税扱いを受けることができます。これは短期滞在者免税というもので、183日という日数要件が有名になって、世間に出ていっています」

「わかりやすいです。つまり原則カナダで課税だけど、租税条約が締結されているから、一定の条件を満たせば免税だということですね」

「そういうことです」

ここまでの説明はよく分かった。税理士法人の人の説明はやはりわかりやすいな、と圭亮は感心した。

「ちょっと前置きが長くなってしまったのですが、ここで台湾の話をしましょうか。圭亮さん、実は台湾と日本は租税条約を締結していないのです」

「台湾の国内法を見ると、台湾で働いて稼いだ台湾源泉所得がある場合、すべての給与が台湾国外から払われていて、かつ台湾滞在日数が90日以下である者は、台湾での申告は不要というルールがあります。国内法で90日以内は免税というルールがあるのです。ただし、すべての給与が日本法人から支払われており、サービスアパートなど台湾での支払いもすべて日本の本社が対応しているという前提です」

「圭亮さんの場合、2017年の台湾滞在日数が110日となっているので、台湾国内法に定められている90日ルールを超えてしまうこととなります。繰り返しますが、台湾と日本には租税条約がないため、日台間においては“183日ルール”は存在せず、台湾で免税扱いを受けることはできません」

木田さんの説明はとても分かりやすく、圭亮は台湾で申告納税の必要があるということを十分に理解した。

木田さんの説明はその後も続き、台湾で納税した分については、日本の確定申告で「外国税額控除」を申告することで二重課税を回避できること、それについても木田さんの所属する税理士法人が面倒を見てくれること、そして過分に取られた税額や、手取りの減少分等については、会社と圭亮との間で清算がされることなどを理解した。

情報量が多かったが、会社と清算があるということで圭亮は安心した。手取りが減るということはないようだ。それならば今後の手続きを淡々とこなすのみ。疑問が晴れて、少しホッとした。

「木田さん、ありがとうございました。また疑問が出たら、連絡させてもらいます。今後、必要な手続きについてはメールにてお知らせください」

そう言って電話を切った。

2018年からは、どうにか台湾での勤務日数を90日以内にする必要があるなと考える圭亮であった。