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元国税庁国際担当官 多田恭章の海外取引に関する税金知識:デンソー事件

シンガポールに設立した海外子会社の所得に対してタックスヘイブン対策税制を適用したのは違法であるとして、デンソーが課税処分の取り消しを求めた訴訟で、最高裁はデンソー側に軍配を上げ、名古屋国税局による課税処分を取り消しました。この裁判は、一審ではデンソーが勝訴、二審は国側が勝訴し最高裁での争いとなっていましたが、デンソー勝訴で終結しました。

■タックスヘイブン対策税制とは

タックスヘイブン対策税制とは、税の著しく低い国・地域、つまりタックスヘイブン(租税回避地)に所在する外国子会社を利用した租税回避を抑制するために、一定の税負担の水準(トリガー税率、20%)未満の外国子会社の所得を、日本の親会社の所得とみなして合算し、日本で課税する制度である。

ただし、正常な海外投資活動を阻害しないため、所在地国において独立企業としての実体を備え、かつ、それぞれの業態に応じ、その地において事業活動を行うことに十分な経済合理性があると認められる場合には適用されないこととなっている。具体的には以下の4つの適用除外基準をすべて満たす場合には適用除外とされる。

1 事業基準
2 実体基準
3 管理支配基準
4 非関連者基準または所在地国基準

今回の裁判では(1)の事業基準が問題となった。事業基準とは、『主たる事業が株式の保有、知的財産権の提供、船舶・航空機リース等でないこと』である。これらの業務は、その性格からして日本においても十分行い得るものであり、タックスヘイブン国で事業を行うことの経済合理性が見い出せないためである。すなわち、子会社の主たる事業が、株式の保有等にとどまる場合は、事業基準を満たさないこととなり、タックスヘイブン対策税制が適用されることとなる。デンソー事件では、シンガポール子会社の「主たる事業」が「株式の保有」であるか否かが争点となった。

■事実関係

デンソーがシンガポールに設立した100%子会社であるA社は、ASEAN諸国等に存する子会社13社及び関連会社3社の株式を保有していた。A社の活動内容等は次の通りであった。

①A社は、地域統括会社として、集中生産・相互補完体制を強化し、各拠点の事業運営の効率化やコスト低減を図るため、地域企画、調達、財務、材料技術、人事、情報システム及び物流改善に係る地域統括に関する業務(「地域統括業務」という)のほか、持株(株主総会、配当処理等)に関する業務等を行っていた。

②A社は、グループ会社に対し地域統括業務を行い、グループ会社から第三者向け売上高等に一定の料率を乗じた金額を徴収していた。

③A社はシンガポールに開設された現地事務所において、職員30数人で業務を遂行しており、職員のうち大半は地域統括業務に従事していた。

④現地事務所の備品、車両、コンピューター等の資産は、その大半が地域統括業務に使用されていた。

⑤A社の収入金額のうち、物流改善業務に関する売上額は、収入金額の約85%を占めていた。他方、当期利益(所得)においては受取配当の占める割合が高く、2007年度は約92%、2008年度は約87%であった。これは地域統括業務によって集中生産・相互補完体制の構築、維持及び発展が図られた結果として、グループ会社全体の原価率が大幅に低減し、これがグループ会社からの配当収入に大きく反映されたものであった。

こうした事実関係を基に、国税当局はシンガポール子会社の主たる事業は「株式の保有」であり、適用除外基準の一つである「事業基準」を満たしていないとして課税処分を行い、名古屋高裁も課税処分は適法との判断を下していた。

■最高裁の判断

最高裁は、A社の「主たる事業」について次のように判断した。

(1)「主たる事業」については、事業活動の具体的かつ客観的な内容から判定することが相当であり、複数の事業を営んでいるときは、収入金額又は所得金額、事業活動に要する使用人の数、事務所、店舗、工場その他の固定施設の状況等を総合的に勘案して判定するのが相当である。

(2)A社は、地域統括会社としてグループ会社の業務の合理化、効率化を図ることを目的として、個々の業務につき対価を得つつ、地域企画、調達、財務、材料技術、人事、情報システム、物流改善という多岐にわたる地域統括業務をグループ会社に提供していた。そして、各事業年度において、地域統括業務の中の物流改善業務に関する売上高は収入金額の約85%に上っており、所得金額では保有株式の受取配当の占める割合が8、9割であったものの、その配当収入の中には地域統括業務によってグループ会社全体に原価率が低減した結果生じた利益が相当程度反映されていたものである。また、現地事務所で勤務する従業員の多くが地域統括業務に従事し、Aの保有する有形固定資産の大半が地域統括業務に供されていた。

以上を総合的に勘案すれば、A社の行っていた地域統括業務は、相当の規模と実体を有するものであり、受取配当の所得金額に占める割合が高いことを踏まえても、事業活動として大きな比重を占めていたということができ、地域統括業務が主たる事業であったと認めるのが相当である。よって、Aは事業基準を満たすといえる。

タックスヘイブン対策税制では、適用除外基準を満たすかどうかが問題となるケースが多い。今回の最高裁判決では、「主たる事業」の判断基準が示されており、海外進出を考えている企業にとっては参考になるものと思われる。

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租税調査研究会事務局
tax@zeimusoudan.biz

著者: 多田恭章

租税調査研究会 主任研究員

元国税庁国際業務課主査。
中小企業に対する税務調査や国際税務に関する経験等をフルに活かし、企業の方々の抱える疑問や不安を少しでも解消できるよう、適切なアドバイスをしていきたい。
■税と経営の顧問団租税調査研究会
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