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酒井克彦の「税金」についての公開雑談~杓子定規の解釈とシェイクスピア、そして役人へのススメ~

租税法の解釈においては「文理解釈が重要」とよくいわれます。なるほど、租税法律主義の下では、法律の解釈にブレがあったり、自己の都合のよいように法を解釈適用すべきではありませんから、文理解釈の重要性は改めて述べるまでもありません。しかしながら、文理解釈が重要だからといって、杓子定規な文理解釈を行うべきかというと、決してそのような単純なものでもありません。東京電力福島第一原発の賠償問題が争われた最近の事例を契機に、改めて考える必要がありそうです。

東京電力福島第一原発賠償訴訟と『ヴェニスの商人』の共通点

平成29年4月14日、福島地裁郡山支部において、福島県中部のコメ農家などが、東京電力福島第一原発事故に伴う放射性物質を農地から除去するよう東京電力に求めた訴訟の判決が下されました。上払大作裁判長(佐々木健二裁判長代読)は「放射性物質のみを除去する方法はなく、請求が認められても東電がすべき行為が不明だ」として原告の訴えを却下しました。裁判の審理対象にならないと判断した「門前払い」の判決に、原告は失望感をあらわにし、控訴の方針を表明したと報道されています(毎日新聞平成29年4月15日デジタル版)。

放射性物質のみを除去する方法がない以上東電のなすべき行為は不明であり、したがって原告の主張は認められないとのロジックは、改めて法の適用の難しさを考えさせる判断であると思います。

ところで、法の適用に当たって、筆者がよく大学の講義で取り上げる事例に、シェイクスピア(William Shakespeare)の『ヴェニスの商人』における人肉裁判があります。世界中に膨大な読者がいるこの作品は、法の解釈を考えるに当たり最適な事例の一つと思われます。

ユダヤ人シャイロックは、自分を侮蔑していた貿易商人アントーニオに無利子の約束で大金を貸します。ただし、期限までに返済できない場合は、アントーニオ自身の肉1ポンドを差し出すという条件を付すことにしたのです。期限を守れなかったアントーニオは、シャイロックに「人肉裁判」にかけられてしまいます。アントーニオの味方の法学者が「肉1ポンドの契約は正当なものだが、そこには血は含まれていない。よって血を一滴もこぼさずに肉を切り取らなければいけない。それができなければ逆にシャイロックは殺人罪で罰せられるはずである」と主張し、これが裁判官の判断に採用されるというストーリーです。

これを契約の文理解釈の限界を示した判決とみるべきか、ユダヤ人に不利になるように契約が曲げられて解釈されたとみるべきか、意見の相違はあるでしょう。「放射性物質のみを除去する方法がない」とした上記福島地裁郡山支部の判決は、この作品を彷彿とさせる判断であるようにも思われるのです。

文理解釈 vs. 目的論的解釈

さて、租税法律主義の下、厳格な解釈が要請される租税法においては、文理解釈が目的論的解釈(趣旨解釈)に優先すると理解されています。しかし、そうであるからといって、租税法が「法」である限り、必ずやその法律には趣旨や目的があるのですから、第一義的な文理解釈の結果が、法の本来の趣旨や目的に合致しない場合には、その導出された解釈は、法解釈として妥当とはいえないでしょう(酒井克彦『レクチャー租税法解釈入門』59頁(弘文堂2015))。また、およそ通常人をして無理難題となるような結論が導出されるとすれば、その解釈は正解とはいえないこととなるかと思います。法律を理解する上では、文理解釈が優先されるべきですが、目的論的解釈も同時に重要であることは間違いないでしょう。

最後に、民法領域の研究に多大な業績を残すとともに、労働法学の創始者、法社会学のパイオニアとも称される東京大学名誉教授である末弘厳太郎博士から役人へ向けられたメッセージを確認しておきましょう。すなわち、末弘博士は、「法規を楯にとって理屈を言う技術と法律学とは別物である。法律学のような高尚な学問を研究せずとも、法規に精通して形式的の理屈をいい有無をいわせず相手の議論を撃破したり要求をしりぞける技術を習得する必要がある。…条理などは無視して法規一点張りで相手をねじふせなくてはいけない。どうもあの男は理屈ばかりこねてものがわからない、といわれるようにならなければとうてい役人として出世しない。」、「だから、今日われわれが教えているように、まず社会があり社会生活があっての法律である、というような考え方は役人にとって禁物である。」と論じられています(末弘「役人学三則」改造13巻8号73頁(同『役人学三則』(岩波現代文庫2000)所収))。

「役人はとことん文理解釈を貫くべし」とされているようですが、著名な法学博士からの役人へのこの教えは、博士の本心でしょうか、それとも皮肉でしょうか。

著者: 酒井克彦

中央大学商学部教授 兼 法科大学院教授/法学博士

中央大学商学部教授。法学博士。現在、税務会計論・租税法などを担当。一般社団法人アコード租税総合研究所 所長、一般社団法人ファルクラム 代表理事。単著に『スタートアップ租税法〔第3版〕』、『クローズアップ保険税務』他5冊のアップシリーズ、『所得税法の論点研究』(財経詳報社)、『裁判例からみる所得税法』、『裁判例からみる法人税法〔2訂版〕』(大蔵財務協会)、『レクチャー租税法解釈入門』(弘文堂)、『プログレッシブ税務会計論Ⅰ、Ⅱ』(中央経済社)、『アクセス税務通達の読み方』(第一法規)など。その他、論文多数。
■一般社団法人アコード租税総合研究所
http://accordtax.net/
■一般社団法人ファルクラム(FULCRUM)
http://fulcrumtax.net/

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