日本法人が海外子会社に必要資金を貸し付ける場合、海外子会社から収受する金利の利率に注意する必要があります。近年では、税務署所管法人でも、子会社から収受する金利が独立企業間価格に満たないとして、移転価格課税又は寄附金課税を受けるケースが増えています。
≪ケース≫
当社は、海外に100%出資の子会社を設立しました。まだ、海外での信用力がないため、当社が必要資金を貸し付ける予定です。貸付金利を設定するにあたり、移転価格税制の観点からどのような点に留意する必要があるでしょうか。 |
1 移転価格税制の適用について
日本法人が海外子会社を設立した場合、設立した当初は海外子会社の信用力が乏しいため現地での資金調達が困難な場合が多く、日本の親会社が必要資金の貸付を行うケースがよく見られます。
本件における資金の貸付先は100%出資の子会社ですから「国外関連者」に該当し、資金貸付の対価である金利について移転価格税制の適用を受けます。国外関連者との間で金銭消費貸借取引を行う場合には、第三者間で通常収受する金利(独立企業間価格)により取引を行う必要があります。国外関連者に無利息又は低い利率で貸し付けた場合、又は高い利率で国外関連者から金銭を借り入れた場合には、独立企業間価格との差額について移転価格課税を受ける可能性が高いといえます。
なお、実務上は、海外子会社に対して経済的利益を供与したものとみなして『国外関連者に対する寄附金』として課税される場合もあります。
2 独立企業間価格(金利)の算定方法
親会社、海外子会社ともに金銭の貸付を業として行っていない場合、独立企業間価格(金利)は、次の①→②→③→④の順番で検討することとなります(移転価格事務運営要領3-7参照)。
①実際の取引金利による方法
貸手である日本法人が第三者に同様の条件(通貨・貸借時期・貸借期間等)で貸し付けている取引(図①イの取引)又は借手である国外関連者が第三者から同様の条件で借り入れている取引(図①ロの取引)等があれば、その取引で付された利率
②貸手の銀行調達金利による方法
貸手である日本法人が、銀行等から同様の条件で借り入れた場合に付されるであろう利率 |
③貸手の銀行調達金利による方法
貸手である日本法人が、銀行等から同様の条件で借り入れた場合に付されるであろう利率 |
④国債等の運用利率による方法
貸付資金を国債等で運用した場合に得られるであろう利率
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【図:海外子会社への貸付金に対する金利の設定方法】
なお、②や③の取引を使用する場合に用いられる「銀行等から同様の条件で借り入れた場合に付されるであろう利率」は、通常、LIBOR(注1)やスワップレート(注2)などの調達時の市場金利に、スプレッド(注3)を加算して算定します。
一般的には、貸付期間が短期(1年未満)の場合にはLIBOR等を用い、長期(1年以上)の場合にはスワップレートを用います。
(注1)LIBOR(London Interbank Offered Rate)とは、ロンドン市場での銀行間で行われる短期の貸付金利。通貨別(USD,EUR,JPYなど)や期間別に表示され、短期金利の指標として用いられます。
(注2)金利スワップにおけるスワップレートとは、国際金融市場において示された、短期金利と交換可能な長期金利の水準を示すものです。
(注3)スプレッドとは、金融機関等が得るべき利益に相当する金利であり、金融機関等の事務経費に相当する部分や借手の信用リスクに相当する部分を含んでいます。
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