日本法人が海外子会社に必要資金を貸し付ける場合、海外子会社から収受する金利の利率に注意する必要があります。近年では、税務署所管法人でも、子会社から収受する金利が独立企業間価格に満たないとして、移転価格課税又は寄附金課税を受けるケースが増えています。

≪ケース≫
『日本法人P社は精密機械部品の製造業であり、海外に製造子会社S社を設立しました。P社は、S社の設備投資資金について、1年前に期間10年、利率2%(固定金利)、ユーロ建てによりS社に貸付けを行いました。2%の利率は、貸付当時の円の固定金利相場をもとに設定しました。この2%の利率について、移転価格上の問題はあるでしょうか。
貸付当時の状況は次の通りです。
- 貸付日における期間 10 年のユーロに係るスワップレート:5%
- P社がS社への貸付と同様の条件で取引銀行から借り入れた場合のスプレッド:0.5%
- P社及びS社とも、実際に行われている第三者との金銭貸借取引はない。
- S社はこれまでに銀行等からの借入れ実績はなく、S社が銀行等から同様の借入をした場合に付されるであろう利率に関する情報は入手できる状況にはない。』
1 移転価格上の問題点
金利水準は通貨によって異なります。例えば米国の子会社に対して貸付を行う場合、円建てで貸付を行うのか、ドル建てで貸付を行うのかにより、当然収受すべき利息の額は異なってきます。よって、外貨建てで貸し付けている場合は、円の金利水準ではなく、当該外貨の金利水準を基準にする必要があります。
本件の場合は、ユーロ建ての貸付ですので、日本円の固定金利相場を用いることは、妥当ではなく、独立企業間の利率を設定したことにはなりません。したがって、2%の利率は移転価格上、問題となる可能性があります。
2 独立企業間価格(金利)の算定
では、本件での独立企業間の金利水準はどうなるでしょうか。親会社、海外子会社ともに金銭の貸付を業として行っていない場合、独立企業間の金利は、以下の①→②→③→④の順番で検討することとなります。
①実際の取引金利による方法
貸手である日本法人が第三者に同様の条件(通貨・貸借時期・貸借期間等)で貸し付けている取引、又は借手である国外関連者が第三者から同様の条件で借り入れている取引等があれば、その取引で付された利率 |

②借手の銀行調達金利による方法
借手である国外関連者が、銀行等から同様の条件で借り入れた場合に付されるであろう利率
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③貸手の銀行調達金利による方法
貸手である日本法人が、銀行等から同様の条件で借り入れた場合に付されるであろう利率 |

④国債等の運用利率による方法
貸付資金を国債等で運用した場合に得られるであろう利率
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まず、①の適用ですが、P社及びS社とも、実際に行われている第三者との金銭貸借取引はないため、①は適用できません。
②については、S社が同様の条件で銀行等から借り入れた場合に付されるであろう利率に関する情報が得られないため、②も適用できません。
③については、P社の取引銀行からP社に係るスプレッド情報が得られていることから、これを基に③の方法を適用して、独立企業間の利率を算定することができます。
③を適用する場合の「銀行等から同様の条件で借り入れた場合に付されるであろう利率」は、通常、LIBORやスワップレートなどの調達時の市場金利に、スプレッドを加算して算定します。 一般的には、貸付期間が短期(1年未満)の場合にはLIBOR等を用い、長期の場合にはスワップレートを用います。スプレッドとは、金融機関等が得るべき利益に相当する金利であり、金融機関等の事務経費に相当する部分や借手の信用リスクに相当する部分を含んでいます。
設例に当てはめると、P社とS社との間の金銭貸借取引に係る独立企業間の利率は、スワップレート 5%+スプレッド 0.5%=5.5%となります。
よって、独立企業間の金利(5.5%により計上した利息)-会社が計上した金利(2%により計上した利息)が所得移転額として課税されることとなります。
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