国税庁は平成28年10月に「国際戦略トータルプラン」を発表し、国際取引調査の取組方針を示しました。それから1年以上が経過し、具体的な取組状況(調査事例等)が公表されました。
国税庁は、「国際戦略トータルプラン」を実現するための具体的な施策として、①情報リソースの充実、②調査マンパワーの充実、③グローバルネットワークの強化を掲げています。
代表的な情報リソースの一つが「国外送金等調書」です。国外送金等調書とは、国外への送金又は国外から送金を受領した金額が100万円を超えた場合に、金融機関が税務署に提出する法定調書をいいます。
国外送金等調書には、
- 送金者又は受領者の氏名・名称
- 国外送金等年月日
- 国外の銀行等の営業所(支店)の名称
- 相手国
- 本人口座の種類、口座番号
- 国外送金等の金額
- 送金原因
などが記入されるため、国税当局にとっては、海外取引に係る資金の流れや国外財産を把握するための重要な情報源となっています。
今回は国外送金等調書の検討から、架空取引や収入除外、源泉所得税の課税漏れが明らかとなった事例を紹介します。
《国外送金等調書の流れ》
【事例1:外国の知人と通謀して架空経費の計上により資金を国外に留保していた事例】
金融機関から税務署に提出される国外送金等調書(送金)より、調査法人が、X国の個人A名義の銀行口座へ多額の送金をしている事実を把握したことから、取引の実態を確認するため調査を実施した。調査の結果、調査法人は、知人であるY国のAと通謀し、Aが主宰するB社の請求書を偽造する手口で架空の業務委託費を計上し、捻出した簿外資金を、X国にあるA名義の銀行口座に送金していたことが判明した。
【事例2:国外における簿外取引により資金を国外に留保していた事例】
金融機関から税務署に提出される国外送金等調書(受金)により、建築業者Aが、調査対象者がX国に保有する銀行口座から多額の送金を受けている事実を把握したものの、調査対象者の申告内容から送金原資を確認できなかったため調査を実施した。 調査の結果、建築業者Aへの送金は、調査対象者が建築業者Aに依頼した自宅の取得代金であることが判明し、その原資は調査対象者がX国の取引先から受け取っていたライセンス収入であり、当該取引については、申告していないことが判明した。
【事例3:海外取引先への役務提供対価の支払について源泉徴収していなかった事例】
国外送金等調書により、調査法人は多額の国外送金をしていたため、取引実態を確認すべく調査を実施したところ、調査法人の本社において、契約書等が確認できない取引を把握した。調査の結果、当該取引は本社を経由せず調査法人の工場が直接契約した取引であり、源泉徴収が必要な技術上の役務提供対価であるが、本社へ取引内容が伝わっていなかったことを理由に、源泉徴収が行われていないことが判明した。
**********************
多田税理士への講演依頼・問い合わせは下記まで。
**********************
租税調査研究会事務局
tax@zeimusoudan.biz