国税庁は平成29年12月に「国際戦略トータルプラン」の具体的な取組状況(調査事例等)を公表しました。今回は外国税務当局との情報交換を利用して申告漏れが把握された事例を紹介します。

国税庁では、個人投資家からの海外投資や企業における海外取引の増加を背景に、国際課税への取組を重要な課題と位置付け、積極的に調査を実施しています。
これらの調査を効率的に進めるための「情報リソース」として、国外送金等調書、国外財産調書、財産債務調書のほか、租税条約等に基づく情報交換を積極的に活用しています。
今回のテーマである情報交換については、3類型による情報交換(①要請に基づく情報交換、②自発的情報交換、③自動的情報交換)が行われています。
《図 情報交換の3類型のイメージ》

要請に基づく情報交換」とは、税務調査において、国内で入手できる情報だけでは事実関係を十分に解明できない場合に、必要な情報の収集・提供を外国税務当局に要請するものです。具体的には、海外法人の決算書及び申告書、海外法人の登記情報、契約書やインボイス等の書類、海外の銀行預金口座情報、海外法人における経理処理が分かる書類、国税務当局の調査官が、海外法人の取引担当者からヒアリングした内容、など、幅広い情報が入手できると言われています。
「自発的情報交換」は、調査等の際に入手した情報で外国税務当局にとって有益と認められる情報を自発的に提供するものをいいます。
「自動的情報交換」は、法定調書から把握した非居住者等への支払等 (利子、配当、不動産賃借料、無形資産の使用料、給与・報酬、株式の譲受対価等)についての情報を、支払国の税務当局から受領国の税務当局へ一括して送付するものをいいます。
【事例1:取引先との関係を考慮して取引先の従業員に支払った謝礼を販売手数料に仮装していた事例】

調査法人に対して、X国のB社に対する販売手数料の支払について確認したところ、B社の活動実態や販売支援活動が不審であったことから、租税条約に基づく情報交換要請を実施したところ、①B社はA社従業員のCにより設立された法人であること、②B社は事業活動を行っている実態はないこと、③B社及び個人Cは受領した販売手数料相当額をX国において税務申告していないことを把握した。これらの情報を基に調査法人に確認を求めたところ、今後の営業上の関係を考慮し、取引先であるA社の従業員であるCの要求に応じて、損金算入できない謝礼を販売手数料に仮装し損金算入していた事実が判明した。
【事例2:国外における簿外取引により資金を国外に留保していた事例】

X国からの自発的情報交換資料により、調査法人Aの代表者BがX国に預金口座を保有している事実を把握した。代表者Bに関する国外送金等調書の提出がないことから、X国における海外口座の原資について確認すべく調査を実施した。 調査の結果、当該預金口座については、Y国法人からのコンサルティング報酬の振込先として利用していたものの、当該報酬について、申告を行っていない事実が判明した。
【事例3:外国のツアー添乗員への業務委託費を架空・水増し計上していた事例】

日本の居住者である調査対象者は、訪日観光客に対するガイド業を営んでおり、訪日観光客を指定の免税店へ案内し、訪日観光客の購買金額に応じて多額の仲介料収入を日本国 内の旅行代理店及び免税店から受領している。 調査対象者の申告において外国人添乗員に対する多額の業務委託費の計上があったため、実態確認をすべく調査を実施した。調査において、調査対象者は、業務委託の役務内容や支払金額の計算根拠など曖昧な説明が多かったため、租税条約に基づく情報交換要請を実施し、X国に支払内容の確認を求めると伝えたところ、架空経費・過大経費計上していたと認めるに至った。
**********************
多田税理士への講演依頼・問い合わせは下記まで。
**********************
租税調査研究会事務局
tax@zeimusoudan.biz