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“税界”の裏話 相続対策としての養子縁組に思うこと

富裕層の相続税対策で活用されることのある養子縁組。最もポピュラーなのが孫を養子にし、相続人を増やすケース。昨年には、最高裁判所が相続税の節税を目的にした養子縁組もケースによっては有効とする判決を言い渡したものの、専門家もその判断には頭を悩ませる。

知人で養子縁組をしている人を数名知っている。本人は表立ってそんな話はしないが、あるときから両親が兄弟姉妹なのだから、その心境は複雑なようだ。養子縁組の理由は、相続・事業承継対策のためで、大人になって気持ちの整理がついたという。本音の部分は分からないが、祖父母が亡くなって事業も引き継ぐようになり、養子について拘りがなくなったのだろう。私などの一般庶民としては、養子縁組とは縁がないため、特別な出来事として触れることすらタブーのような気がしてしまうが、相続税対策ということではかなり使われているらしい。

昨年、最高裁判所では、節税目的の養子縁組につて興味深い判決があった。税理士などの税の専門家の間では話題になったのだが、その判決は、「節税のための縁組でも直ちに無効になるとは言えない」(最高裁第三小法廷)というもの。有効性が争われていたのは、2013年に82歳で亡くなった福島県の男性と孫との養子縁組。男性は、亡くなる前年の2012年に長男の息子である1歳の孫と養子縁組をしたのだが、男性の死後、男性の長女らが「父親に養子縁組の意思はなかった」として、養子縁組の無効を求めて提訴した。

一審判決では「男性には養子縁組の意思があったと推定される」として、長女等の請求を棄却。ところが、二審の東京高裁は、男性が生前に税理士から養子縁組による節税効果の説明を受けていたことなどから、「養子縁組は相続対策のためであり、孫との間に真の親子関係をつくる意思はなかった」として、縁組を「無効」と判断。おのためステージを最高裁に移し争われることになった。

実子がいない場合は2人の養子OK

さて、相続税対策でなぜ養子縁組するのかといえば、相続税額は、遺産総額から基礎控除額を引いた額に課税される。現在の基礎控除は3千万円がベースで、法定相続人数1人につき600万円加算されるが、法定相続人の数が増えると、基礎控除額が増えて節税になるためだ。法定相続人に含まれるのは配偶者と子ども。養子については1人まで認められ、実子がいない場合は2人まで。

裁判では、こうした節税効果に注目した男性に養子縁組みの「意思」があったかどうかが争点となった。 民法802条1号は、養子縁組について「当事者間に縁組みをする意思がないとき」は無効としている。高裁では、節税目的の養子縁組はこの「意思がないとき」に当たるとして無効と判断したが、最高裁は「相続税の節税の動機と縁組をする意思とは併存し得るもの」と判示。さらに「専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても、直ちに養子縁組について民法802条1号にいう『当事者間に縁組をする意思がないとき』に当たるとすることはできない」とした。

節税目的の養子縁組の有効性は、これまで下級審で判断が分かれていたが、最高裁が「有効」と認めたのは初めて。最高裁の〝お墨付き〟を得たことで、「相続税対策にも影響が出てくる」という税理士の指摘も少なくないが、そもそも日本人の風土として節税目的のためだけに養子縁組を簡単に実施する人も少ないような気がする。

最高裁は「節税目的の養子縁組であっても直ちに無効とはいえない」と判示したのだが、「節税目的でも絶対に有効」としたわけではない。「直ちに」という言葉を使っているのが曲者で、この一言が入っていることで、ケースバイケースの現状を維持した感がある。

相続税法63条には「相続税の負担を不当に軽減させる結果となると認められる場合は、税務署長の判断で養子を算入せずに税額を計算することができる」との規定もあり、私見だが、最高裁はこの63条も無視できなかったものと思われる。
とりあえず、このケースバイケースとしたことで、認知症の高齢者の財産を狙った養子縁組は、まだ排除する余地を残したものと推測される。一派庶民にあまり縁のない養子縁組だが、富裕層の相続においては、ドロドロとした現実社会の問題が多々絡み合っている。

著者: 宮口貴志

KaikeiZine編集長

税金の専門紙「納税通信」、税理士業界紙「税理士新聞」の元編集長。現在は租税研究会の事務局長であり、会計事務所ウオッチャーとしても活動。
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