近年では、企業グループ内取引が税務調査において寄附金認定され、課税されるケースが多発しています。今回は、新聞等で報道された寄附金課税された事例を紹介します。これらの事例の多くは仮装・隠ぺい行為を伴っていると指摘され、「重加算税」の対象とされている点も特徴的です。
1 新聞報道された寄附金課税事例
■海外子会社への「為替調整金」が寄附金認定された事例(2012年2月22日 読売新聞)
農機メーカー大手のA社は大阪国税局の税務調査を受け、海外子会社との取引を巡り、3年間で約1億2,000万円の申告漏れを指摘された。A社は急激な円高を背景に、海外の農機販売子会社に対し、現地での販売価格の実情に応じて取引価格を引き下げたほか、為替差損を補填する「為替調整金」を経費として計上した。これに対し、大阪国税局は「子会社の損益の実態に見合わない取引価格の圧縮と調整金の架空計上に当たり、経費として計上できない寄附金に該当する」と判断した。さらに仮装隠蔽による意図的な所得の圧縮と認定した。
■子会社が負担すべき市場調査費等を親会社が負担した事例(2012年7月17日 朝日新聞)
大手プラントメーカーのB社は東京国税局の税務調査を受け、5年間で約4億4千万円の申告漏れを指摘された。中国とタイの子会社3社のために現地で実施した市場調査の費用や、海外子会社に出向した社員のボーナスや旅費など計2億4千万円をB社の経費として計上したが、東京国税局は「子会社が負担するべきで、A社の経費とは認められない」と指摘し、子会社に対する寄附金と認定した。一部については仮装・隠蔽行為を伴う所得隠しと判断した。
■子会社を支援するための低価販売が寄附金認定された事例(2012年7月27日 朝日新聞)
大手電機メーカーのC社は大阪国税局の税務調査を受け、5年間で約74億円の申告漏れを指摘された。うち15億円以上が、正規の取引を装った海外子会社の支援などによる所得隠しと認定された。大阪国税局は、C社が海外子会社に一部の製品を売却した際の価格が、通常より安いと指摘。通常価格との差額分を、課税対象となる寄附金とみなした。子会社を支援するためのこうした低価販売が、意図的な所得隠しにあたると判断したとみられる。
■子会社が負担すべき販促費や広告費などを親会社が負担した事例(2014年5月15日 毎日新聞)
大手家電メーカーのD社は大阪国税局の税務調査を受け、海外子会社などへの支援を巡り、2年間で約100億円の申告漏れを指摘された。D社は複数の海外子会社に無償で人材を手配したり、技術面で支援したりしていた。大阪国税局は、こうした人的・技術的な支援について、本来は子会社側から費用を受け取る必要があると指摘。無償支援は子会社への実質的な寄附金に当たり課税対象となると認定した模様だ。
■海外子会社への「価格調整金」が寄附金認定された事例(2015年3月31日 毎日新聞)
音響機器メーカーE社は、東京国税局の税務調査を受け、約9億円の申告漏れを指摘された。E社は、海外の子会社への資金援助について、「価格調整金」として申告したが、寄附金と認定された模様だ。問題となったのは12年3月期にE社がベトナムの子会社に支出した約9億円。レアアースの価格高騰で子会社の経営状態が悪化した12年3月30日付で覚書を交わし、決算期末に当たる翌31日に子会社に価格調整金を請求させた。しかし、税務調査で、覚書は12年4月に作成されたことが判明した。東京国税局は、約9億円の支出は子会社の赤字計上を避けるための利益の付け替えで、仮装隠蔽行為に当たり、寄附金と認定した模様だ。
2 寄附金課税されやすい取引
一般的に次のような取引は、国外関連者に対する「経済的な利益の無償の供与」に該当するとして、寄附金認定されるリスクがあるので注意が必要です。
- 海外子会社に対して製品を赤字販売した場合
- 海外子会社に出向した社員の給与を親会社が負担した場合
- 海外子会社に技術支援のために社員を出張させたが対価を回収していない場合
- 海外子会社に無利息貸付又は低利貸付を行っている場合
- 海外子会社が製造・販売する製品の広告宣伝費を全額日本の親会社が負担した場合
- 海外子会社へ製造技術を使用許諾したが、対価であるロイヤルティを回収していない場合
- 海外子会社と対価について契約を締結したが、契約で定めた対価を回収していない場合
- 海外子会社に対する債権を放棄している場合
- 決算期末に海外子会社に価格調整金を支払っている場合
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