報道によると、美術品取引をめぐり法人税約1億3,000万円を脱税したとして、名古屋国税局が法人税法違反の疑いで、美術品売買会社やその元社長を名古屋地検にそれぞれ告発したそうです。今回は、しばしば租税事件で話題となる名画と租税についてみてみましょう。

美術品と不正

美術品取引をめぐり法人税約1億3,000万円を脱税したとして、名古屋国税局が法人税法違反の疑いで、名古屋市中区の美術品売買会社「イスクラ」と、加納義久・元社長(52)=同市千種区=、子会社「アート買取協会」=同市中区=を名古屋地検にそれぞれ告発したことが平成31年4月25日に分かりました(時事通信社web news 平成31年4月26日付け「美術品取引で脱税疑い=法人税1億3000万円-名古屋国税局」)。

報道によると、加納元社長は両社を実質的に経営しており、アート社が保有する絵画など美術品を仕入値より安くオークション業者に売却したように装い、架空の損失を計上していました。

こうして簿外在庫とした美術品をイスクラが百貨店などで実際に販売する一方、仕入を架空に計上し、利益を少なく偽装していました。イスクラは平成29年7月期まで、アート社は同年6月期までのそれぞれ3年間で、計約5億7,000万円の所得を隠し、法人税計約1億3,000万円の納付を免れたと報道されています。

絵画の盗難

このように、しばしば絵画は脱税の道具として使われます(本コラム:酒井克彦の「税金」についての公開雑談「税務官吏と印象派絵画」、同「グルリット事件」も参照)。

脱税は国家に払うべき税金を隠して払わないようにするものですから、見方を変えると、国家から盗んだものともいえそうです。他方で、絵画も、しばしば盗難の対象になります。

例えば、ロンドンのダリッジ絵画館所蔵のレンブラント(Rembrandt Harmenszoon van Rijn)の「ヤコブ・デ・ヘイン3世」は、過去、1966年、1973年、1981年、1983年と4回も盗難にあっています。なぜ、この絵がそれほどまでに盗難にあっていたかというと、これが、オーク材に画かれていた肖像画で、友人の肖像画と対になっている珍しい作品であったというだけでなく、約30センチ×25センチと絵自体が小さく持ち出しやすかったことや、美術館のセキュリティが緩く、壁から絵が簡単に外れることにあったそうです(朽木ゆり子『消えたフェルメール』173頁(集英社2018))。

このように、美術館の警備上の問題が、繰り返し盗難にあう理由の一つであるといえるでしょう。

犯罪者マーティン・カーヒルと租税回避地

さて、ラスボロー・ハウスの警備も緩いものでした。同美術館の警備の不意を衝いて、有名な犯罪者マーティン・カーヒル(Martin Cahill)が、1986年5月21日未明、なんと15枚もの名画を盗難しました。以下、盗まれた絵画の一部を見ても、大規模な盗難であったことがよく分かります。

・フェルメール(Johannes Vermeer)「手紙を書く女と召使い」
・ゴヤ(Francisco José de Goya y Lucientes)「ドーニャ・アントニア・サラーテの肖像」
・メツー(Gabriël Metsu)「手紙を書く男」、「手紙を読む女」
・ルーベンス(Peter Paul Rubens)「僧侶の頭部」、「騎士」
・トーマル・ゲインズバラ(Thomas Gainsborough)「ジョバンナ・バッチェッリの肖像」
・フランチェスコ・グァルディ(Francesco Guardi)「ヴェネツィア、大運河の風景」、「気まぐれ」
・アントワーヌ・ヴェスティエ(Antoine Vestier)「ランベール王女の肖像」

そのうち、フェルメール、ゴヤ、メツーの「手紙を書く男」、ヴェスティエの絵は、ルクセンブルグ経由でベルギーへ運ばれました。その目的は、ベルギーのダイヤモンド商人率いる麻薬カルテルが、マネーロンダリングに利用するカリブ海の国、アンティグア・バーブーダ(Antigua and Barbuda)のオフショア銀行を買うための資金調達だったといわれています(前掲書・183頁)。

アンティグア・バーブーダといえば、租税回避地(タックスヘイブン)として有名です。タックスヘイブンは、このように、単に税金が安いとか無税であるというだけではなく、しばしばマネーロンダリングのためにアングラマネーが集まるところでもあるのです。

その後、上記の事件は絵画1枚を残して回収され、犯人のカールヒルは、IRA(北アイルランドの分離独立主義者)のメンバーの手によって射殺されています。

残念なことに、絵画と脱税、マネーロンダリングとの関係は今後も続くのでしょう。

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