■所得税法における「課税」「非課税」の考え方

ここから所得税では課税・非課税をどう考えているかについて見ていきましょう。

●所得は原則すべて課税

所得税法では原則、個人の所得すべてを課税対象としています。「人が何らかの理由でお金を得ているなら税金を支払う力(担税力)があるはず」と考えるからです。所得の定義は条文では明確にされていませんが、過去の判例(※)では「非課税という規定が設けられているのでない限り、担税力を増加させる経済的な利益は課税所得になる」としています。この考え方を上記のコロナで支給されるお金に当てはめると特別給付金のみが非課税、それ以外は課税になるわけです。

なお、所得税法第94条に事業所得を生ずべき事業の休業により得た補償金の類は課税の対象とする旨が書かれています。ここを見ても事業主向けの国のお金は課税対象だと判断できます。

※横浜地裁平成元年7月22日判決、昭和50年10月28日静岡地裁判決及び昭和51年9月13日東京高裁判決

●非課税所得の背後にある「最低限の生活の保障」

ここで特別定額給付金が非課税とされた背景について考えてみましょう。所得税法第9条で非課税所得とされているもののうち社会的・政策的配慮によるものと他の規定で非課税とされているものに共通する概念は「最低限の生活の保障」です。最低限の生活の保障という文言は、生存権の保障を謳う憲法25条に書かれています。

生活資産の売却益や生活保護費、遺族年金や児童扶養手当に課税をされてしまうと、人は安心して生活できません。特に低所得者や障害者、子どもを一人で育てている人には切実な問題です。こういった配慮から非課税規定が設けられています。家計費支援という位置づけである特別定額給付金も同様の考え方で非課税になったと思われます。

●賠償金判決に見る課税・非課税の判断とは

賠償金はその支払事由により、課税・非課税が分かれます。この判断をめぐり、過去何回か裁判になったことがありました。この判決から所得税法の課税・非課税の考え方をより深く読むことができます。

賠償金判決で共通して非課税としているのは「その賠償金が心身や財産の損害の回復に対するものだけ」です。ここでいう賠償金とは最低限の生活を営むのに必要な資本を損なうことに対するものであり、その原状回復のためのお金に対して課税するのは不適当だというわけです。

しかし、賠償金を非課税とする規定も全額を非課税としているわけではありません。所得税法施行令第30条柱書かっこ書には、賠償金のうち事業の必要経費の補填に充てられるものを除いて非課税とする旨が書かれています。必要経費の補填になる賠償金は、通常ならば得られたであろう収入の代わりです。このお金は原状回復というより担税力の増加に当たります。そのため、課税の対象となるわけです。

なお、判決の中には「仮に必要経費の補填請求と原状回復のための請求を同時に行うなら、それぞれ区別して請求するべきだ」としているものもあります。まとめると、非課税となるお金はあくまでも原状回復に対応する部分に限られ、まとめて賠償請求するなら区別する必要が生じることになります。

■まとめ

事業主向けの国のコロナ補償の制度内容を見ると、支給対象が事業主限定であることから、目的は必要経費の補填であり、心身損害の賠償や生活費の補填を前提としていないことが伺えます。また、国からもらったお金を非課税とし、かつ支払った家賃などの支出を必要経費としてしまうと二重の控除となってしまい、補償を得ていない他の事業主との間で課税の公平が図れません。

さらに、課税の不公平は、他の問題を引き起こす可能性があります。同じ50万円にしても一方は働いて収入を得たのに課税され、もう一方は休業協力でもらって課税されないとなると、課税が不公平なだけでなく「働かない方がラクしてトク」という印象を国民に与えることになってしまうのです。実際、事業主の中には「協力金がほしいんだけど、いつまで休んでどれくらい売上を減らしたらいいの?」と顧問税理士に相談する人もいると聞きます。この状況で、もし国からのお金がすべて非課税になってしまったら、「真面目に働くなんてばかばかしい」という風潮を生み出しかねません。

以上を見ると、やはり事業主向けの国のお金は課税所得として扱わざるを得ないと言えます。

 

【参考文献】

・税理2014年5月号「ライブドア被害回復金と課税」

・「非課税所得となる損害賠償金の範囲」

https://www.zeirishi-net.gr.jp/koide/200710.html

・「租税平等負担原則における所得税と消費税」

https://www.jstage.jst.go.jp/article/takahogaku/29/0/29_KJ00007028099/_pdf/-char/ja

・「資産に加えられた損害に対する損害賠償金等を巡る所得税法上の諸問題」

https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/kenkyu/ronsou/69/01/01.pdf


バナーをクリックすると㈱レックスアドバイザーズ(KaikeiZine運営会社)のサイトに飛びます

最新記事はKaikeiZine公式SNSで随時お知らせします。

 

◆KaikeiZineメルマガのご購読(無料)はこちらから!
おすすめ記事やセミナー情報などお届けします

メルマガを購読する


 

 

(関連記事)

【飲食店オーナー必見!是非使いたいコロナショックの支援制度3選】

【支払いを減らそう!コロナ禍に負けたくないフリーランスがやるべき猶予・減免策3つ】

【自粛してから夫がウザい…コロナ離婚したい妻が知っておくべき税金の知識】