お金のカラクリ侍として公認会計士へのインタビュー記事を執筆している松本佑哉氏。今回は、KaikeiZine編集部が松本さんのキャリアをインタビュー!フリーランス公認会計士としてさまざまな事業を展開されている姿に迫ります。(インタビュワー:村松)
ー今までのご経歴を教えてください。
大手監査法人を経て、会計系コンサルティングファームで財務調査、IPO、事業再生、不正調査対応といった会計業務を経験しました。コンサルでは新規事業開発やマーケティング支援などを幅広く経験し独立しました。
今はコンサルティング業務を中心にしつつ、飲食店や広告代理店の経営、ベンチャー役員参画、多様なコンテンツ開発を自社で行うなどの活動をしています。フリーランスの公認会計士、お金のカラクリ侍としてYouTubeも開設しています。
ー会計士を目指されたきっかけは何ですか?
もともと事業家になりたかったんです。会計士を目指したというよりは、知識としてビジネスの総合能力が世の中で一番まとまっているものを探した結果、公認会計士という資格の勉強にたどり着きました。
事業家になりたいと思ったのは高校性の頃です。当時も孫さん、三木谷さん、堀江さんが注目を浴びていたのですが、社会のニーズをとらえて勝負をしかけて、難しいことがあっても、全てキャッチアップしていく姿に「すげーな!」と思いました。ドラマティックな、世の中を動かしている感じに憧れました。
このような方たちを分析してみると、本当に強い事業家たちは、フロント業務からバッグ業務まで専門家の分野と思われているようなことも一応ざっくりは知っていることがわかりました。そして、それを体系立てて知るために一番近かったのが公認会計士だったんです。だから、実は監査がしたいわけでも、税金計算ができる税理士に憧れていた、というわけでもなかったんです。
ーいくつも事業をされていますが、取捨選択はするのですか?
優先順位をつけて事業を選択する人が多いかもしれませんが、僕は少し違います。
コンサル会社も、案件を同時に抱えるでしょう。あの感覚で意外と事業ってたくさん回すことができるんです。「この案件はこのくらいの重さだな。」とか「MAXでもこのくらいだな、忙しいときはここだけ外注すれば失礼はなく回せるな。」とか、一人で回さないでちゃんと業務の先まで見据えて役割分担をしたら、いくらでも事業は回せます。
僕は、ビジネスモデルを作って、経営者としてハンドリングをする際に、現場もできるように全部習得します。もちろん現場を極めていく人にはなれません。そこにはその道の専門家がいると思うので。例えばお蕎麦屋さんをやるとしたら蕎麦職人を雇えばいいけれども、蕎麦職人のことをよく分かっている必要があるので、経営者も蕎麦職人でなくてはいけないと考えているわけです。自分が実際に蕎麦を打つことを極めるのと、経営するのとでは、程度感が違います。
今は各事業5人くらいでチームを組んでいるのですが、皆それぞれが何かしらの専門家たちです。なので、戦略の細かいガントチャートのようなものは僕が作って、あとは皆で役割分担をし、それぞれがプロフェッショナルを発揮してコンテンツを作っていくことで事業が進みます。

ーなるほど、コンサルで案件を担当するイメージですか。他に、監査法人やコンサルティングファームで積んだ経験で今に活きている部分はありますか?
大局を見て次の一手を見定めることです。ビジネスマンとしての基礎素養ですが意外と普通のサラリーマンをしていると身につけづらいスキルでしょう。監査法人で監査をして、数字に落とし込んで、全体をざっくり見る。これは経営に大事なスキルだなと思いますね。
会計士の一番の強みって事業の理解だと思うんです。もちろん先読みができるレベルで事業を理解している人は、会計士のごく一部しかいないと思います。だけど、過去にやったことや、大局を掴んで、全体像を外さないという能力は全員持っています。
事業には安定が大事で、奇抜な新しいことをやっていく上でも絶対に安定は必要です。
深さという意味では、将来の先読みまではできない場合もありますが、今の数字をしっかりと把握することはできます。事業をやっていく上では現状把握はとても大事で、その能力は公認会計士なら監査で身についていると思います。
しかし、そうはいっても、監査法人で30年働いた人がいきなり経営コンサルや事業ができるかといったら、全くできません。それは、経営には経営のスキルが必要だからです。社長や社員の気持ちの動かし方とか、売れる製品の創り方とか、業界のキーマンはどうやったら協力してくれるのか、といったあらゆるスキルが必要です。それは、公認会計士という職業だけでは身につかないものですよね。公認会計士の知識を活かせる部分はあるけれども、あくまでも一部でしかない。
だから、コンサル会社では、ビジネスを推進していくための深みになるところとか、人を動かすというところを経験しました。企業の担当者として動かすまではいかずとも、網羅的に、マネジメントする側の深みには触れられました。
まとめると、監査法人ではビジネスの広さや全体感を、コンサル会社ではビジネスの深みに触れることができました。
ー先ほど、経営者としてのスキルやビジネスの先を見通すことは会計士にとって簡単ではない、という話が出ましたが、これらを身に着けるために意識されていたことなどはありますか?
飲みニケーションですね。
僕は大学4年で監査法人に入っているんですが、当時はmixiが流行っていました。そこで、本を出している人や、ちょっと賑わっている人、全部で60人くらいに、自分でアポを取って会いに行ったんです。最近の若い子はそういうことやっている人が増えていますけど、当時はほぼいなかったんです。そこで、事業や世の中を作っている人たちに「滋賀県という片田舎から出てきた22歳の公認会計士です。東京で面白い仕事をしたいと思っていますが、公認会計士ではフロント業務には触れられません。あなたのされているお仕事はカッコよくて面白いです!興味があるので飲みに連れて行ってください。」と(笑)
ーそういった方たちに連絡をするのは、普通の人からするとハードルが高いと思うのですが、どんなマインドで行動していたのですか?
一つは、必要だと思ったからです。アクセスできる!と思ったら、前のめりに行きました。誤解を恐れず申し上げると、これ以上ない最高の生きる教材ですから。
あともう一つは、会計士って急に合格が決まるじゃないですか。友達もまだ地元にばっかりいるわけです。そうすると、休日やアフター5が暇なんです。それなら、せっかく東京に来たんだから、面白い仕事してる人たちに会いたいと思いました。今より会ってもらうハードルも低かったですしね。
そこで、いろいろな話を聞きました。実務を知っている日本のトップクラスの人たちです。そんな話を聞いてまわったら、ノウハウも身につきます。さらに一応公認会計士というのがありがたくて、小童扱いされないんです。会計・税務とか、法律に関することだと、僕にも聞いてくださるんです。「この前、こんな労務の話があってな…」と。僕は(専門外だけど…)と思いつつ、相談されたら全部答えていました。そうすると、自然とギブ&テイクになるんですよね。

ー会計士資格を持っている、ということがメリットになったのですね。
そうです。だから、小童だし、教えてもらっている方が多いけれども、「今度こんな面白いやつと飲むから、お前も来い」と誘ってくれて、本当に良質な人脈ができたりもしました。何か課題を見つけた時、こういった人脈を使って解決できるようになりましたね。さらに、お会いしてきた一人ひとりのノウハウはとてもレベルが高くて価値がありました。教えてもらって、その価値あるノウハウが僕に集積されたんです。今の僕のノウハウの源泉となっています。おかげでコンサルでは本来は個人レベルで受託できるものではない水準の上場会社など大企業の仕事が頂けています。
とはいえ、会計士ならではの課題もありました。僕は大学4年生のときに公認会計士に現役合格して、監査法人のあとコンサル会社に入って、ちょっと有名な案件もいくつかやりました。でも、そこで「新規事業やります!」と言っても、ミーハーな人しかついてこないんです。泥臭さがないわけです。もっと言えば、デスクだけで仕事してきた人の発言なので言葉に重みがないんです。でも本当の事業には、現場で泥臭くやってくれる職人さんたちが必要です。
自分でアクティという飲食店を開業して、現場にも立ちました。自分で飲み屋を持っていたら、飲み二ケーションの場としてたくさんの人と知り合い、信頼関係を築けると思ったんです。
とても大変な飲食店というゴリゴリの現場も手を抜かずに3年間走り続けました。体重は一時期15キロも痩せました。素人あがりなのに厨房で何十人分も同時に料理が出来るようになるまで上達して、ホールスタッフを担当しているときは、お客様から「ビール!」と雑に呼ばれても「はーい!♪」と元気よく走り回ったくらいです。極めようとする僕を見て、一緒に仕事をしてみたいと思ってくれる人がたくさん増えました。「この人は、何とかする人」という印象がついたようです。
そうすると、僕の作りたかった新規事業で「とりあえず僕が何とかするから、一緒にやらない?」と熱意を伝えると協力をしてくれるわけです。言葉に重みが出ました。
このような積み重ねがあったからこそ、もし僕が何かやろうと思ったときに、第一線の方たちに安心して仕事を頼める関係ができました。
ー現在いろいろなことにチャレンジされている中で、10年後20年後のビジョンはありますか?
今、考えているのは2年先までですね。マッチョエステ、メンズメイク検定、ソトママ(働くママのプラットホーム)など新規事業を5つやっているのですが、これが2年先までにある程度形にできていて、採算も取れていると思うので、まずはそこまで一回行って、その先はそのときに考えようかなと思っています。お金が回る状況を作った上で、面白いものを作り続けられる人になりたいです。
世の中で事業開発のノウハウと言われているものがありますが、形式的に感じることがあります。社長や創業者としてやっている人と直に話して感じたのですが、もっと本質を突き詰める力をつけていけば、誰でも簡単にビジネスを作っていけるのにと思うんです。教科書に載ってないノウハウを持っていることが僕の強みですね。
当時、堀江さん、三木谷さん、孫さんがいましたが、あの頃のほうが事業開発のリアリティがあったような気がします。今は、気づいたら消えていくITベンチャーや、見た目だけ変えた同じような内容のコンテンツばかりが出てきているように感じていて…。まずは「それが欲しかった!」と思われる事業を実績として形にしたいです。
ー最後に、KaikeiZineの読者にメッセージをお願いします。
KaikeiZineの読者の方たちは、スキルを仕事にしている人たちだと思います。そうすると、仕事に対して自分ができることは何かというスタンスになりますよね。でも仕事とは本来、何かの価値を提供するものではないでしょうか。提供するということは、当然その相手がいる。そうすると、相手が求めているものに自分が出来るのかという観点でだけで関わるかどうかを判断しがちになってしまいますが、僕にはそれが、バックオフィスの間違えがちな点に感じられます。
まず課題があって、それをどうやったら解決できるか。自分で出来る出来ない関係なく、とにかく自分が関わって何とかするという向き合い方が重要です。これが本当のビジネスへの向き合い方だと思うので、そういう思いで仕事をすれば世の中からバックオフィスに対する信頼がもっと得られると考えています。
自分ができる範囲だけで自分の仕事を済まそうとするな、ということですね。
20年前に比べて、今はインターネットも発達して、ノウハウ本も洗練されています。何が正解かも解説されて、習得の仕方までキレイにまとめられているので、試しにやってみないと分からないということがない。
だからこそ、一つのスキルを極めるのに速度感がないと、AI、RPAといった自動化されていく世界に置いていかれます。人へ仕事を振る前に実際に自分でやってみて、勘どころを分かった上で仕事を振ればスムーズです。自分ができないから人に任せるのは、マネジメントじゃなくて丸投げです。それではもう生き残れません。
今、クライアントの課題に本当の意味で向き合っているプロフェッショナルが、どんどん誕生し始めています。「専門職」というより「エージェント」ですね。お客さんに対して、”僕たちは何でも解決します”という向き合い方が必要だと思います。
ー松本さん、ありがとうございました!
(松本佑哉氏 執筆記事)
・第2章① 監査法人辞めた後の選択肢はなんだ~①そもそも俺は何がしたい~
・第2章② 監査法人辞めた後の選択肢はなんだ~②公認会計士としてキャリアを積んできた俺の強みはなんだ~
・第2章③ 監査法人辞めた後の選択肢はなんだ~③自己分析した状況を踏まえて選択肢をよく考えてみる~
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