軽減税率問題でなにかと話題の消費税だが、今後は税務調査でも注目されそうだ。
消費税は基本、法人税とセット(個人は所得税とセット)で調査されるが、消費税だけで調査される「消費税固有の調査」というものもある。税率が8%から10%になれば、1億円の儲けで単純に800万円から1千万円と、200万円も消費税を多く納める必要がでてくる。税金が増えれば、そこには「なんとか取り戻そう」という意識も出てくるもので、課税当局では不正申告に網を張っていく。

平成27年4月1日から、消費税率10%に引き上げられるのに併せて、軽減税率が導入される。このことから、売り手(販売者)の処理(課税売上)も、買い手(購入者)の処理(課税仕入)も、複数税率により経理事務処理が増大する。そのため課税当局は、「消費税の適正課税の確保」と題し、消費税調査を厳格に執行することは間違いないようだ。というのも、すでに「税制に対する国民の信頼を確保する観点から、消費税の適正課税の執行当局としては最重要課題の一つのため、職員全体で認識を共有し、不正還付を含む不正計算や固有の非違を念頭に置いた消費税調査等に的確かつ重要的取り組む」こととしているためだ。

当局では、「消費税は預り金的性格」とよく説明するが、原則、納税を考えれば「預り金―預け金=納税」であり、運転資金に回され滞納とならないように目を光らせている。

そもそも、軽減税率導入で税務処理が複雑になるほか、8%から10%にアップすると、税収は約4兆円程度増え、税収のなかでトップになる。現在、消費税収は10兆円程度。2%アップすると14兆円規模となり、所得税収と同等程度となる。

消費税ついては、税務調査も厳しく実施され、このほど国税庁から発表された平成26事務年度の法人消費税調査の実績では、法人消費税は9万1千件調査が行われ、5万2千件で非違が見つかっている。追徴税額は452億円で前事務年度と比べると、119.6%と増加した。

消費税は制度として還付も発生することから、結果として不正に還付申告を行っている法人も少なくない。不正還付申告に対しては、厳正な調査を実施しているが、同26事務年度は、消費税還付申告法人に対して7400件調査、消費税77億円の追徴税額となった。

消費税調査の仕方は、消費税固有の納税者を除き、法人税とセット(個人は所得税とセット)で行われることが多く、法人税の非違に連動して消費税の非違も生じる「連動非違」か、それとも法人税の否認とは連動しない「消費税固有の非違(固有非違)」に分類して調査される。連動非違の調査方法は、法人税は赤字申告でも消費税は課税事業者に該当するが消費税の申告を行っていない法人はないかを調べたりする。

消費税の課税事業者となる法人は、基準期間の課税売上高が1千万円超。また、この事業年度開始の日における資本及び出資の金額が1千万円以上ならば設立1期目、2期目など基準期間がない事業年度でも課税事業者になる。さらに、「消費税課税事業者選択届出書」を提出している法人は、課税売上高が1千万円未満であっても課税事業者として取り扱われる。そのため、税務調査では適正に消費税の申告を行っているかどうかが確認される。

課税売上高の算定についても厳しく確認される。
消費税においては、国内において事業者が事業として対価を得て行われる資産の譲渡、貸付及び役務の提供が課税対象となる。課税売上高の調査においては、これらの課税取引をもとに課税売上高が適正に集計されているかどうか、課税取引を非課税取引や不課税取引として取り扱っていないかチェックされる。

仕入税額控除の算定も調査対象だ。
課税売上高の算定とは逆に、非課税取引や不課税取引に該当するものを課税取引とし、仕入悦額控除の対象としていないかが調査される。なかでも給与、会費、交際費等に誤りについては念入りに調べられる。

消費税調査に詳しい租税調査研究会の武田恒男主任研究員・税理士は、「税務の実務の現場では、消費税率10%導入後しばらく、税率が5%、8%、10%の取引が混在することになります。また、複数税率への対応も出てきますので、『販売する側』と『購入する側』の双方において、今以上にミスする法人が多くなると予想されます。課税当局も十分にその当たりは分かっており、税務処理に関しては十分に注意する必要があります。しばらくは、消費税の還付申告の対応も含めて、顧問税理士としっかり打ち合わせをしながら事務対応することがリスク対策につながります」と指摘する。消費税は10%税率、軽減税率導入だけでなく、今後は税務調査にも関心が集まりそうだ。