被告「説明した」 原告「聞いていない」
主な争点は、I税理士法人(被告)がDESに関する説明義務を怠ったかどうか。
A社(原告)は、I税理士法人が、平成18年度税制改正でDESを実行した場合に、債権の額面金額と時価との差額が債務消滅益として課税対象となることが明確化されたことについての知識を欠いており、A社らに対して何の説明もなかったと主張。事実、I税理士法人が作成したDESの提案書には、DESのデメリットとして交際費税額損金不算入、中小法人の特例不適用、外形標準課税の導入、法人住民税均等割の増加——の4項目が記載されていたが、債務消滅益への課税の可能性や、課税された場合の具体的な税額の試算等についての記載はなかった。
I税理士法人側はこれを否認し、元社長らに対して「本件DESにより相当額の債務消滅益が発生し、課税される可能性は相当程度存在するが、A社が債務超過の状態にあることから債務消滅益が顕在化していないと判断されて課税されない可能性もなくはない」旨の説明をしたと主張した。
リスク説明の証拠がない―
これに対し東京地裁は、平成18年度税制改正以降、現物出資型のDESにおいて債務者に債務消滅益課税が発生するリスクがあることは常識となっているとした上で、本件DESは税法上の適格現物出資でもなく、法的整理等において行われたものでもないため「債務消滅益を欠損金と相殺できる」というI税理士法人の認識は誤っていると指摘。
I税理士法人が元社長に渡したDESの提案書には、債務消滅益課税の可能性や予想される税額等についての記載が全くなく、何の説明もされていなかったことが強く推認されること、DESによる法人税の増加額と相続税の減少額を比較して説明したことを示す証拠もなく、そもそもI税理士法人はDESにより発生する法人税等の試算すらしていなかったのではないかと推察されること——などを総合すると、I税理士法人がDESによる債務消滅益課税のリスク説明を怠ったことは明らかであると判断。A社側の主張を全面的に認め、I税理士法人に対しDESのリスク説明がなされていれば発生することのなかった法人税負担等の合計3億2900万円の支払いを命じた。
「言った」「言わない」という水掛け論の様相も一部呈したこの争い、そもそも税理士法人側の認識不足が原因とも推察されるが、3億円超という損害賠償の規模を見ると、節税対策におけるリスク説明の重要性を改めて思い知らされる。税理士にとって、クライアントへの確実なリスク説明はさることながら、説明をした証拠の確保も重要といえそうだ。
なお、I税理士法人側は控訴しており、どの部分で争うかにも注目が集まる。
【 事件の経緯 】
平成20年 2月 A社、I税理士法人との顧問契約を締結(同24年4月に解消)
平成21年 頃 元社長、相続税対策の必要性についてI税理士法人に相談開始
平成23年 7月 I税理士法人、A社の元社長にDESを提案
<提案書の内容>
・A社には繰越利益剰余金がマイナス約10億円あるため元社長が保有する債権を10億円まで出資しても株価は0円である
・メリット =有利子負債の減少に伴う利息支払いの軽減、資本金増額における取引先との格付アップ、債権にかかる相続税の軽減の3項目
・デメリット=交際費税額損金算入、中小法人の特例が不適用、外形標準課税の導入、法人住民税均等割の増加の4項目
・…以上を踏まえると現物出資型のDESが最も有利と考えられる
・※債務消滅益に対する課税の可能性や課税された場合の具体的な税額の試算等についての記載はない。
同年 8月 DES実行(同日、元社長の息子がA社代表取締役に就任)
・元社長の債権9億9000万円をA社に現物出資
・A社はこれを受入れ普通株式4億9500万株を第三者割当発行
・これによりA社の資本金は2000万円から5億1500万円に
(2カ月後に再び2000万円に減資)
同年11月 元社長死亡
・相続税申告の手続き過程でDESによりA社に債務消滅益が発生していることが判明
平成24年 6月 法人税確定申告(DESがなかった前提の内容)
?月 相続税申告(DESによる債務消滅を前提とする内容)
11月 法人税修正申告(DESによる債務消滅益の発生を前提とする内容)
平成25年 2月 A社、I税理士法人に対し損害賠償請求→提訴へ
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