4.審判所の判断
(1)法令解釈
相続税法第22条は、相続財産の価額は、特別に定める場合を除き、当該財産の取得の時における時価によるべき旨を規定しており、ここにいう時価とは相続開始時における当該財産の客観的な交換価値をいうものと解される。
この点、相続財産は多種多様であるから、その客観的交換価値は必ずしも一義的に確定されるものではなく、これを個別に評価するときには、その評価方法等により異なる評価額が生じて納税者間の公平を害する結果となったり、課税庁の事務負担が過重となって大量に発生する課税事務の適正迅速な処理が困難となったりするおそれがある。
そこで、課税実務上は、相続財産評価の一般的基準が評価通達によって定められ、原則としてこれに定める画一的な評価方法によって相続財産を評価することとされている。このように、評価通達の定める評価方法によって相続財産を評価することは、税負担の公平、効率的な税務行政の運営という観点からみて合理的であると考えられ、その上で、評価通達の定めによる相続財産評価の方法は、適正な時価を算定する方法として一定の合理性を有するものと一般に認められている。
以上によれば、評価対象の相続財産に適用される評価通達の定める評価方法が適正な時価を算定する方法として一般的な合理性を失わず、かつ、上記評価方法によっては適正な時価を適切に算定することのできない特別な事情の存しない限り、相続財産の評価に当たっては、評価通達の定める評価方法によって評価を行うのが相当であり、かかる評価額をもって、当該相続財産の時価であると事実上推認することができるものというべきである。
(2)検討
①本件各土地について
A 規模
確かに、本件各土地の公簿面積は393.44㎡であり、本件各土地の東隣の公示地の地積165㎡と比較すると大きいが、地積規模の大きな土地であることからは、売買における取引総額が高額となることが考えられ、そのことにより、想定し得る購入者の範囲が狭まるということはあり得るとしても、土地の取引価格は、その土地の存する地域の状況、当該取引の時点における経済環境等の影響を受けるものであり、最終的には取引当事者の合意によって定まるものであることからすれば、購入者の範囲が狭まることによって、当然に当該土地の取引価格が低下するという関係にあるとはいえない。
以上の諸事情に照らせば、本件各土地の規模は、特別な事情には当たらない。
B 地勢等
高低差があることについては、がけ地部分等通常の用途に供することができないと認められる部分に対応したがけ地補正率を乗じることにより、車庫の設置部分のみ道路面まで落ち込んでいることについては、道路より高い位置にある宅地などその利用価値が低下している宅地であるとして、利用価値が著しく低下している宅地の評価の場合の10%の減額[1]の方法により、それぞれ適切に評価をすることができる。また、本件各土地のうちがけ地及び車庫の設置部分を除く部分については、西向き及び北向きに緩やかに傾斜しているにすぎず、その利用に格別の支障を生じさせるものとはいえないから、減価要因とは認められない。
以上によれば、請求人の主張する事情は、評価通達及び10%減額により評価される事情であるか、減価要因とは認められない事情であるから、特別な事情には当たらない。
②本件家屋及び本件倉庫について
本件家屋は、壁面や窓枠等にひび割れがあったり、雨樋が破損していたり、天井が抜けていたりするものの、床や柱には大きな損傷等がないため、内部の移動や風雨をしのぐことも可能であり、現に多数の荷物等が置かれ、躯体自体も保持されていることからすると、居宅としての機能を一応維持しているということができ、経年減点補正を越えて更なる減価を要するものとまでは認められない。
また、本件倉庫は、天井にベニヤ板が貼られ、床にコンクリートが打たれ、多数の段ボール箱が大きな損傷等もなく置かれていることからすると、倉庫としての機能を一応維持しているということができ、経年減点補正を越えて更なる減価を要するとは認められない。
以上のとおり、請求人らの主張する本件家屋及び本件倉庫の現状は、いずれも固定資産評価基準に定められた経年減点補正により評価される事情であるから、特別な事情には当たらない。
[1] 国税庁ホームページのタックスアンサー「No.4617 利用価値が著しく低下している宅地の評価」には、①道路より高い位置にある宅地又は低い位置にある宅地で、その付近にある宅地に比べて著しく高低差のあるものや②地盤に甚だしい凹凸のある宅地など、その利用価値が付近にある他の宅地の利用状況からみて、著しく低下していると認められる宅地の価額は、その利用価値が低下していると認められる部分の面積に対応する価額を10%減額して評価することができる。本稿第17回「列車走行による騒音で利用価値が著しく低下している土地と認定された事例」参照(https://kaikeizine.jp/article/21923/)。



