政府は、2021年9月発足予定のデジタル庁の事務方トップに、一橋大学名誉教授の石倉洋子氏を起用する方向で最終調整に入った。石倉氏は、日本人女性として初めて米国ハーバード大学大学院で経営学博士を取得し経営戦略などを専門としている。デジタル庁が本格的に動き出すことで、日本もいよいよ電子政府へと加速するわけだが、国税当局はどんな未来像を描いているのだろうか。

政府関係者によると、9月1日に発足するデジタル庁の事務方トップとなる「デジタル監」に石倉洋子氏を起用する方向で最終調整に入った。

デジタル監をめぐっては当初、マサチューセッツ工科大学メディアラボの元所長である伊藤穣一氏の起用を検討していた。しかし、伊藤氏が、性犯罪で起訴されていたアメリカ人実業家から資金提供を受け、批判を受けていたことから他の人物での人選が進められていた。

デジタル庁が本格稼働することで、日本の電子政府化が加速する。法整備も着々と進められ、税務・会計分野では2022年1月より改正電子帳簿保存法(電帳法)が施行され、帳簿書類のスキャナ保存に関する事前承認の制度が廃止されるなど、請求書や領収書などの電子データの保存の利便性が大幅に向上する。

国税のDX化の大義名分は「納税者の利便性」

こうした一連の流れの中で、国税当局はデジタル・トランスフォーメーション(DX)において、どういった未来像を描いているのか、その全貌がさきごろ明らかとなった。

国税庁は2021年6月11日、「税務行政のデジタル・トランスフォーメーション - 税務行政の将来像2.0 -」を公表し、デジタルを活用した、今後の国税に関する手続きや業務の在り方について抜本的に見直していくことを表明した。

税務行政のDXの根本的な目的は、「納税者の利便性の向上」「課税・徴収の効率化・高度化」を柱に、「あらゆる税務手続が税務署に行かずにできる社会」の実現や、課税・徴収におけるデータ分析の活用などの取組をさらに進めていくこと。

税務申告というと、サラリーマンなどは、確定申告での医療費の還付申告やふるさと納税での寄附金控除でしか馴染みはないと思うが、個人事業主や法人にとっては、複雑な税務処理や申告手続きは頭の痛い問題だ。

これがDX対応で簡素化・便利になるなら、税務行政のDX化はもろ手を挙げて歓迎すべきことだが、国税当局はどんなことを考えているのだろうか。

ざっと中身を見れば、確定申告に必要な給与などの収入金額、医療費の支払額などのデータを自動で取り込み、簡単な操作をすることで申告が完了する仕組みや、チャットボットなどを活用し、税務署にいかなくても相談が受けられる体制作り、納付手段の多様化とキャッシュレス納付の推進などが想定されている。

DX化の推進は個人情報の紐付けが不可欠

筆者は、数年前に電子政府で有名な北欧のエストニアに視察に行ったが、税務申告をはじめあらゆる手続きが、スマートフォンやPCで済んでしまう、とても便利な仕組みが作られていた。

確定申告も、政府からメールで「今年の収入はいくらあり、税金はいくら発生します」という連絡が来て、問題なければ、クリック一つで終わってしまう。こうした便利さの裏には、マイナンバーと個人情報(社会保険や銀行口座など)の紐付けが必要になるが、エストニア人は、利便性を優先したのだ。

理由は多々あるが、旧ソビエト連邦の崩壊で、国として独立していくには人口が少なく、産業もなかったことからの、切羽詰まった選択だったともいえる。ただ、エストニア人や現地に住んでいる日本人に話を聞いても、「マイナンバーにさまざまな情報を紐付けても、個人情報が悪用されるわけではなく、問題なく運用されている」と言っていた。

日本もDX化が進めば、同じようなマイナンバーにさまざまな情報が紐付けられ、税務申告も想像以上に楽になるものと考えられる。企業の年末調整も必要なくなるのではないだろうか。現状、年末調整は企業にとっては手間のかかる作業。これがなくなるだけでも画期的だ。