5.解説

  • (1)本件通達について

本件に係る法令解釈通達の逐条解説[3]には、「仮に据付工事を機械設備等の販売に伴う単なる付帯サービスとして理解するならば、全体を1個の販売行為とみて、機械設備等の販売の場合の引渡し基準に基づいて一括して資産の譲渡等を行ったことになるが、機械設備等本体の販売取引とその据付工事に係る請負取引とが1つの契約の中に併存していて、両者を区分することの方がむしろ合理的であるというのであれば、(中略)両者を区別して別の資産の譲渡等の計上時期とする余地が出てくる(下線筆者)。」との記述がある。しかし、逐条解説のいう「販売取引と請負取引が併存していて両者を区分することの方がむしろ合理的である」場合とは何を指すかについて、逐条解説では具体的に示されていない。また、本件通達はあくまで資産の譲渡等の時期に関するものであって、課税仕入れの時期に関するもの(下記(2)参照)ではないため、売主側で販売取引と請負取引を区分する方が合理的であると考えても、それが買主側でも当てはままるかどうかについては明らかではない。いずれにせよ、本件通達が適用される場面というのは極めて限定的と思われる。

  • (2)課税仕入れの時期に関する最近の裁判例

近年、消費税の課税仕入れの時期に係る下級審裁判例の蓄積があり、「課税資産の譲渡等」と「課税仕入れ」を表裏一体のものとして捉えるという観点から、売手の権利確定主義が「妥当する/整合的である」と判示するものが多い。さらに権利確定主義をどのように判断するかについても2つの類型[4]があるが、どれも決定打に欠ける印象がある。本稿では、現在論じられているものについて簡単に紹介する。

①同時履行の抗弁権[5]などの法的障害がなくなった時点とするもの(東京高判令和元年9月26日・平成31年(行コ)第90号等)

②付加価値の移転の着目するもの(東京地判平成31年3月14日・平成29年(行ウ)第142号及び東京地判平成31年3月15日・平成29年(行ウ)第144号)


[3] 「平成26年版消費税法基本通達逐条解説」(大蔵財務協会)472頁、「十訂版法人税法基本通達逐条解説」(税務研究会出版局)108頁及び「令和3年版所得税法基本通達逐条解説」(大蔵財務協会)319頁の3誌を指し、その記載内容はほぼ同一である。

[4] 漆さき「消費税法上の『課税仕入れを行った日』の解釈」(ジュリNo.1550 2020年10月)137-138頁参照

[5] 双務契約の当事者の一方は相手方がその債務の履行を提供するまでは自己の債務の履行を拒むことができるという権利(抗弁権)(民533)。双務契約には当事者の公平を図るという観点から、一方の債務の履行と他方の債務の履行は互いに同時履行の関係に立つという履行上の牽連関係が認められるという点に根拠を持つ(Wikipedia)。


個別転職相談(無料)のご予約はこちらから

 

最新記事はKaikeiZine公式SNSで随時お知らせします。

 

◆KaikeiZineメルマガのご購読(無料)はこちらから!
おすすめ記事やセミナー情報などお届けします

メルマガを購読する


(関連記事)

第42回 債務控除の対象は、相続人がその債務を履行し相続財産の負担となることが必然的な債務をいうとされた事例【相続税/一部取り消し】

第43回 元従業員の窃取行為による収益は請求人に帰属せず、損害賠償額は窃取品の時価とすべきとされた事例【法人税等/棄却・一部取り消し】

第44回 物の引渡しを要しない請負契約について部分完成基準は適用されないとされた事例【法人税/全部取消し】

第45回 ポイントも課税資産譲渡等の対価の額に該当するとされた事例【消費税/請求棄却】

第46回 非嫡出子の母が管理していた贈与による預金は相続財産に含まれないとされた事例【相続税/一部取消し】

▶その他関連記事はこちら