物の引渡しを要しない請負契約について、請負代金の支払い条件が出来高払いであっても、部分完成基準は適用されないという判断が示されました。

国税不服審判所平成30年4月13日裁決(国税不服審判所HP)

1.事実関係

本件は、審査請求人(請求人)が、請負工事に係る収益を、その工事の全部が完成し、元請先の検査に合格した日の属する事業年度に計上していたところ、原処分庁が、請求人が未成工事受入金として経理処理していた工事収入の一部について、出来高に応じて工事代金を収入する旨約していることから、当該出来高に対応する工事収入は出来高部分が検収された日の属する事業年度の益金の額に算入すべきであるなどとして、法人税等の更正処分等をしたのに対し、請求人が、原処分の全部又は一部の取消しを求めた事案である。

請求人(資本金1千万円の株式会社)がH社から受注した本件各工事は、一部を除いて平成28年4月以降に完成(竣工)し、請求人とH社が合意した日に竣工検査が行われ、検査合格後、請求人は、H社に対し竣工届を提出し、H社は、提出された竣工届の「竣工検査日」欄及び「検収日(引渡日)」欄に、検査合格日を記載していた。なお、H社と請求人は、本件各工事に関し、双方が遵守すべき一般的契約条件を定める工事下請契約約款(本件約款)を取り決めた上、個々の請負工事契約は、H社が請求人に対して注文書を交付し、請求人がH社に対して注文請書を交付していた。

本件各工事における請負代金の支払条件は出来高払であり、H社は、自社の出来高の結果を記載した出来高調書と題する書面を作成しており、そこには工事件名、検収月、前月末の累計出来高の割合、当月の出来高の金額及び当月の検収金額(税込み)などが記載されていた。請求人は、H社に対し、出来高調書に基づき請求書を作成し、H社に対し、出来高請求金額(本件請求額)を請求していた。

請求人は、H社から受注した工事の収益の計上に関する会計処理基準として、工事完成基準を一貫して採用しており、請求人は、各事業年度末において、本件請求額のうち、H社から支払われた各工事に係る金額を、総勘定元帳の未成工事受入金勘定に計上するとともに、これらの各工事に対応する工事直接費及び工事間接費に係る金額を未成工事支出金に計上していた。

2.争点

本件請求額は、法人税の所得金額の計算上益金の額に算入されるか(消費税に係る争点は省略)。

3.原処分庁の主張

次のとおり、本件請求額は、法人税の所得金額の計算上本件各請求日の属する各事業年度の益金の額に算入される。

①請負による収益のうち、物の引渡しを要しない契約において、出来高に応じて請負報酬の代金を支払う旨の特約がある場合には、出来高に応じた報酬債権が現実化している部分の金額を、その現実化した事業年度の益金の額に算入することになる。

②本件各工事の請負代金の支払条件として、H社の検収に基づく出来高払によることとされており、本件各工事の全部が完成していなかったとしても、本件約款に基づき、H社が出来高の検収を行った時に、当該出来高部分について、請求人の収入すべき金額が確定する。

③本件各工事に係る請負契約は労務費を主な原価とする、物の引渡しを要しない請負契約であるところ、本件約款、注文書及び注文請書からすると、本件各工事に係る請負契約には、部分的に引渡しが行われ、それに応じて工事代金を収入する旨の法人税基本通達2-1-9(当時)[1]が定める特約又は慣習がある。


[1] 現行法基通2-1-1の4参照。

4.審判所の判断

  • (1)法令解釈

法人税法22条4項は、現に法人のした利益計算が法人税法の企図する公平な所得計算という要請に反するものでない限り、課税所得の計算上もこれを是認するのが相当であるとの見地から、収益を一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計上すべきものと定めたものと解されるから、権利の確定時期に関する会計処理を、法律上どの時点で権利の行使が可能となるかという基準を唯一の基準としなければならないとするのは相当ではなく、取引の経済的実態からみて合理的なものとみられる収益計上の基準の中から、当該法人が特定の基準を選択し、継続してその基準によって収益を計上している場合には、法人税法上も上記会計処理を正当なものとして是認すべきである。

一方、請負代金を支払う時期について、民法633条及び同法624条1項は、物の引渡しを要するときは、仕事の目的物の引渡しと同時に、物の引渡しを要しないときは、その約した役務の提供を完了したときにそれぞれ支払うこととされている。そうすると、請負による収益の額は、物の引渡しを要する請負契約にあってはその目的物の全部を完成して相手方に引き渡した日に、物の引渡しを要しない請負契約にあってはその約した役務の全部を完了した日に請負代金を請求することができ、収入すべき権利が実現又は確定したといえるから、その日の属する事業年度の益金の額に算入するものと解するのが相当である。

  • (2)認定事実

本件各工事に係る請負契約は主として役務の提供を内容とするものであるが、本件各工事における請負代金の支払条件は、いずれも出来高払とされているが、本件請求額は、本件各工事の工事監督者が、本件各工事の工期や工程に照らして工事の進捗状況を確認した上で、本件各工事の出来高として査定したものである。また、H社の資材部長及び本件各工事に係る各工事監督者等の当審判所に対する答述によれば、出来高調書及び出来高請求書では上記査定を「検収」と記載しているが、これらは、H社が本件各工事の出来高の金額を確認する、あるいは、請求人に対する出来高の金額の支払を認めるという意味で使用しており、上記1の竣工検査を了したという意味の検収として使用しているものではない(下線筆者)。すなわち、H社が本件各工事のうち本件請求額に相当する部分の完成を確認したものではない。

  • (3)当てはめ

H社は、検査合格日を検収日(引渡日)としているところ、本件各工事の検収日は、竣工届の「竣工検査日」欄及び「検収日(引渡日)」欄の各日であるから、同日に請求人の役務の提供が完了したと認められる。したがって、法人税基本通達2-1-5(当時)[2]により、本件請求額を含む、本件各工事の請負代金の全額が、本件各工事の検査合格日の属する事業年度の益金の額に算入されるから、本件請求額は、それぞれの事業年度の法人税の所得金額の計算上益金の額には算入されない。

上記(2)のとおり、注文書及び注文請書に記載された「検収」の文言は、本件各工事の竣工検査を終了したという意味で用いられたものではないから、注文書及び注文請書に「検収したもの」との文言が記載されていることをもって、法人税基本通達2-1-9(当時)に定める「特約又は慣習」があったとみることはできない。


[2] 現行法基通2-1-21の7において、旧2-1-5の考え方が引き継がれているとされる。

5.解説

裁決書によれば、本件各工事の一部については、当初の支払条件は検収後一括払とされていたが、その後、出来高払へ変更されたとのことである。また、本件各工事の出来高の支払時期について、本件に係る注文書及び注文請書には、各月の1日から10日までに「検収」したものは翌月20日、11日から月末までに「検収」したものは翌月27日と記載されており、かかる「検収」の文言等から、原処分庁は事実誤認したものと解される。

なお、本件は、平成30年度税制改正以前の事例であり、同改正により、企業会計基準委員会の「収益認識に関する会計基準」に対する法人税法上の対応として、法人税法22条4項の別段の定めとなる同法22条の2が創設され、それを受けて関連する通達が整備された。ただし、従前から、物の引渡しを要しない請負による収益の額は、約した役務の全部を完了した日の属する事業年度の益金の額に算入するのが原則であり、所謂「部分完成基準」は例外である[3]という位置付けに変わりはない。


[3] 齋藤吉英『物の引渡しを要しない請負契約に係る益金の年度帰属』(税務弘報・2021年9月)165頁参照。


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