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発泡酒、第三のビール増税はあるのか?  衆院選挙が大きく影響も

「ビール類の税率統一」。政府・与党は2017年度税制改正に向け、ビール類の酒税の見直しを進めている。もし、実現するとビールの値段は下がる一方、ビールの代替として親しまれてきた発泡酒や第三のビールは値段が上がる。ビールを楽しめる“富裕層”は恩恵を受けるが、代替ビール類で楽しみをつないでいた庶民にとっては増税となる。

ビール類の税率見直しが、2017年度税制改正に向け本格化しそうだ。政府・与党は、ビールや発泡酒、第三のビールなどの税額一本化を進める議論を数年前から行ってきた。しかし、その都度、景気や選挙などへの懸念もあり先送りされてきたが、消費税増税の2年半先送りが決定されたことを受けて、議論を進めやすい環境になった。

主な論点は、350ミリリットル当たり税額55円程度への一本化や、ビールの定義拡大。酒税法では、原料をホップや麦などに限り、麦芽の比率も67%以上のものだけを「ビール」と定義しているが、税率では、麦芽率50%以上の発泡酒もビールと同じ税率だ。麦芽25%未満を「発泡酒」、そして麦芽以外の原料で作った「第三のビール」とで税額が違う。現行の税額は、350ミリリットル当たり、ビール77円、発泡酒47円、第三のビール28円。税額の差は小売価格に直結し、ビールは第三のビールの約1.5倍程度となっている。

ビールは割安、発泡酒・第三のビールは増税

そもそも税額改正の論議は、「税額の安いビール類の開発競争ばかり進み、税収減にもつながっている」などと政府・与党が判断したらだ。そのため、税額及び定義の見直しを進める運びとなった。
とはいうものの、税制の見直しは、メーカーの開発の方向性にも大きく影響するため、経過措置なども焦点となりそうだ。

ビールの新しい定義や税額の一本化が決まれば、メーカーは商品開発戦略の練り直しや、生産計画の再考などを迫られる。一気に税額を一本化すれば、増税となる発泡酒や第3のビールを購入する消費者の負担感が大きい。このため、数年をかけて段階的に実施する案も有力だ。発泡酒と第3のビールは、ビールよりも割安ということもあり、サラリーマン層を中心に購入されており、デフレ時代のヒット商品に成長した。最近では、プリン体ゼロの発泡酒が絶好調で、第3のビールの年間出荷量はビールに迫る勢いだ。
それが増税となれば、庶民への増税となり、家計への影響は大きい。ビールを楽しめる「富裕層」には恩恵となり、発泡酒や第三のビールで代替している庶民にといっては経済的負担がのしかかる。
また、ビールメーカーも稼ぎ頭を狙い打ちされた格好で、売り上げに大きく響いてくる可能性が高いのだ。

しかし、そんな消費者やメーカーの切実な想いとは逆に、今回の増税に前のめりなのが財務省。発泡酒と第3のビールの増税は財務省にとっては長年の悲願。このタイミングで政府・与党が動き始めたことは、財務省にとっては好都合である。

財務省は欧州ビールとの調整も視野に

さらに、財務省としては、実はもう一つ税率と定義の見直を進めたい事情がある。というのもEUとの関係だ。欧州では、麦芽比率がもっと低かったり、別の原料で風味を付けたりしてもビール。原料にオレンジピール(皮)やコリアンダーなどを使って風味を付けたビールを日本に輸出しているが、酒税法で定めた原料以外を使っていると、容器には「発泡酒」と記載される。一方で酒税法は、発泡酒でも麦芽比率が50%以上ならビールと同じ高税率となるため、欧州産の多くが高税率を課せられている。EUは「発泡酒扱いされてブランドイメージが損なわれているのに、税率は高い。非関税障壁だ」と見直しを求めているのだ。
こうした外圧もあり、財務省としては手を付けたいお家事情もあるのだ。

こうしたビール類の税率や定義の見直しに関して、大手ビールメーカーの反応だが「見直し反対」で足並みが揃っているかと言うと、実は各社事情が異なる。一枚岩ではないわけだ。
というのも、大手ビールメーカー各社の、ビール、発泡酒、第3のビールの売上比率は違う。今回の税制改正が実現すると、ビールは減税、発砲酒と第3のビールが増税となるわけで、メーカーによっては税制改正が有利、不利に働くという違いがあるのだ。

最も恩恵を受けるのがアサヒビール。売上高に占めるビールの比率が7割ほどと圧倒的に高いため、ビール減税のメリットが最も大きい。一方でサントリーは第三のビールの売り上げ比重が最も高い。過去には、日本で初めて発泡酒を発売しながらも、相次ぐ増税で発泡酒市場から撤退した過去もある。

とはいうものの、サントリーは、高級ビール『ザ・プレミアム・モルツ』を主軸に売り上げを上げており、第3のビールの落ち込みをプレモルで挽回できる可能性が高い。
ビール類の税率及び定義の見直しは、国内、国外の事情も踏まえ今後進められていくわけだが、忘れてならないのが今回も永田町の存在だ。永田町界隈では、2017年1月の衆院選挙という観測が広がっており、すでに与野党で選挙準備が進んでいる。安倍晋三首相の総裁任期延長という、重要な意味合いもあるだけに、今回も家計に影響する増税は先送りされる可能性も高い。だましだまし議論されるビール類の税率見直し、決着するには、まだ時間がかかるりそうだ。

著者: 宮口貴志

KaikeiZine編集長

税金の専門紙「納税通信」、税理士業界紙「税理士新聞」の元編集長。現在は租税研究会の事務局長であり、会計事務所ウオッチャーとしても活動。
■税と経営の顧問団租税調査研究会
http://zeimusoudan.biz/
■KaikeiZine
https://kaikeizine.jp/

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