2017年度税制改正では、脱税調査をする査察官の権限強化が図られる。調査手続きを定めた国税犯則取締法(国犯法)を改正し、査察官、いわゆる「マルサ」が電子メールなど電子データを押収できるようにするほか、強制調査に着手できる時間制限もなくす予定だ。マルサの権限強化でわれわれは何に気をつけなくてはならないのだろうか。

財務省と国税庁は、2017年度税制改正で国税犯則取締法(国犯法)を68年ぶりに改正し、査察官が電子メールなど電子データを押収できるようにする。

現在の国犯法は、明治時代の1900年に制定。脱税の調査で押収できる証拠を「物件、帳簿、書類等」としており、電子データについては明確な規定を設けていない。条文もいまだにカタカナ表記だ。そこで今回の改正に伴い、上記内容を見直すほか、同法を国税通則法に編入する考えもあるようだ。

マルサが脱税調査をする際、現状ではIT関連機器に保管された情報だけは、被疑者の協力を得て、任意で提出してもらわないと入手できないことになっている。電子情報については、差し押さえのできる明確な規定が国犯法にないためだ。

国犯法は、国税に関する犯則事件に関する収税官吏(徴収職員)の権限等を定めたもの。租税犯についての調査・処分に関する手続を定め、租税犯の特殊性ゆえに刑事訴訟法上の手続とは異なる調査・処分を認める。租税犯も刑事犯の一種であり、刑法総則の適用を受ける。

国犯法は、マルサを縛る絶対的な法律だけに、これに記載がないということは、それ以上のことはできない。

これで困ったことが、最近の脱税事件は海外の租税回避地(タックスヘイブン)に置いた子会社を利用するなど複雑になっており、証拠となるやりとりや帳簿が電子メールやインターネット上に保存されているケースが多い。クラウド上などにある海外子会社や会計事務所とやり取りしたメールなどが入手困難なままだと脱税の摘発に支障が出かねない状況になっているのだ。

現状は被疑者に任意で情報提供してもらっているが、場合によっては顧問税理士や弁護士が拒否する可能性も有り、重要情報を入手できない可能性もあるのだ。

そこで財務省・国税庁は、強制的に入手できる規定を設け、調査精度を高めたい考えだ。

また、強制調査に着手できる時間の規定も見直し、夜間でも強制調査ができるように法改正も考えている。国犯法8条には、日没から日の出までは強制調査の時間と定めており、日中に調査をしていて新たに調査が必要な場所が浮上しても、日没までに裁判所の許可手続きが間に合わず翌日に持ち越しとなる場合があった。

刑訴法や独占禁止法、金融商品取引法などと比べても、夜間の捜査・調査着手を認めており、脱税調査だけ時代遅れの規定が残っていた。

企業の経理・会計等データは、IT技術の進化に伴い、自社のパソコンはもとより、クラウドなどのインターネット上に保管される場合が急増している。そのため、税務調査においても、ITデータの調査は必須と言っても過言ではないのだ。こうした状況下、凶悪脱税事件を調査するマルサが、IT関連情報だけは被疑者の任意による協力がなければ押収できないというのは、権限が弱すぎるといえる。

ただ、国犯法が改正されると、パソコンやサーバー上のデータだけでなく、クラウド等のネット上のデータも捜索され、顧客情報等のプライバシー性の高い情報も閲覧される可能性も出てくる。つまり、これまでの物理的な捜索対象とは異なる配慮が求められるわけだ。刑事訴訟法上の捜査でも「捜索差押の必要性と並んで利用者のプライバシー保護を十分に考慮する必要がある」とする裁判例もある。課税当局の権限濫用の防止策も法改正に盛り込む必要が当然必要だろう。納税者側としては、これまで強制捜査が及ばなかったネット上の電子データ等の扱いにも注意していく必要がでてくる。