事例紹介
以下で紹介する事例は、内国法人の代表取締役が国外において行う業務が「使用人として常時勤務を行う場合」に該当するか否かが争点となったものです(平成6年5月25日裁決)。
1 事実関係
X社は、代表取締役であるAが海外におけるプラント工事に従事するために出国していた期間中にAに支払った役員報酬について、「使用人として常時勤務している役員に対する報酬」であると考え、源泉徴収をしていなかった。
なお、Aが出国していた期間、Aは非居住者に該当した。
国税当局は、Aの勤務は、X社の役員としての勤務であるから、Aに支払われた役員報酬は、国内源泉所得に該当するとして20.42%の源泉所得税の納税告知処分をした。
これに対してX社は、以下のとおり、Aは使用人として常時勤務していたから、国内源泉所得には該当しないと主張して争った事例である。
(X社の主張)
X社は、元請会社との間で国外における業務契約を締結しており、Aは国外出張と同時に元請会社の現地支店長の支配下に入り、同支店の職員と同じような立場で、元請会社の服務規程を完全に遵守して使用人としての業務に専念していた。
よって、この間は、X社の代表取締役としての業務執行が入り込む余地はなく、また現実に代表者としての専権業務の執行は全く行なっていなかった。

2 審判所の判断
審判所は、以下の通り判断し、X社の主張を斥けました。
- 法人の代表者が他の大規模な法人の使用人と同様な現場作業に従事していたとしても、小規模法人にあっては、それ自体は代表者としての法人の業務執行に従事しているものというべきであり、これを使用人としての労働とみることはできない。
- たとえAが元請会社の職員と同じような職務に従事したとしても、これはX社と元請会社の間の業務契約に基づいて役務の提供をしたものであるから、これをもって使用人としての労働とみることはできない。
- 以上から、Aは、国外勤務の期間中も代表取締役の地位にあっては、その勤務は使用人として常時勤務する役員としての勤務には該当しないので、Aに支給した報酬は、国内源泉所得に該当する。
総括
近年、多くの企業が海外進出しており、それに伴い人の移動も活発化しています。海外勤務の役員に対する報酬を巡っては、勤務地が海外であっても国内源泉所得に該当するため、源泉徴収漏れが生じやすく、税務調査での指摘も多く見られます。
指摘される誤りのパターンとしては、
- 勤務地が国外であることから国外源泉所得に当たると誤認し、源泉徴収をしなかった。
- 非居住者である国外勤務役員を居住者扱いしていたため、源泉徴収税額が過小となった。
- 役員の業務が「国外において内国法人の使用人等として常時勤務している場合」に該当しないにも関わらず、該当するものと誤認し、源泉徴収をしなかった(本件のケース)。
等が挙げられます。
国外勤務する役員の報酬については税務調査でチェックされるため、源泉徴収の対象となるものかどうか、慎重に検討する必要があります。
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