商標権の使用料を日本法人が非居住者や外国法人に支払った場合、原則として源泉徴収が必要となります。注意すべきは、使用料という名目ではなく、損害賠償金・和解金・解決金などとして支払われるものであっても、源泉徴収が必要となる場合があるという点です。

今回紹介する事例は、外国法人の標章及びシンボル・マークをサングラス・眼鏡枠に不正に使用したことを理由とする損害賠償請求訴訟事件に関して、日本法人が外国法人に支払った和解金が、国内源泉所得として源泉徴収の対象となるとされた事例です(平成6年6月21日裁決)。

事案の概要

甲社は、眼鏡製品等の販売業を営む同族法人である。

甲社は、外国法人である乙社の標章及びシンボル・マークを自社のサングラス・眼鏡枠に不正に使用したとして、損害賠償請求訴訟を提起された。

甲社は、訴訟費用が膨大な金額にのぼってきたこと等の理由から、和解に応じ、総額4,000万円の和解金を乙社に支払った。

4,000万円の根拠については、乙社がたまたま丙社に標章を使用許諾し、丙社の工場出荷額の7%の使用料を取得している取引があったことから、この使用料の算定方法を利用して算定したものであった。

サングラス及び眼鏡枠の平均小売価格は12,000円であり、工場出荷価格はその35パーセントと判断されることから、以下の算式で和解金が計算された。

(平均小売価格)   (販売本数)    (標章使用料相当額)

12,000円 × 0.35 × 136,945本 ×7% = 40,261,830円

 

国税当局は、本件和解金は「工業所有権等」の使用料に該当し、国内源泉所得になると判断し、源泉所得税の課税処分を行った。それに対し、甲社は処分を不服として審査請求した事案である。

甲社の主張

甲社は、国税当局の処分に対して、以下のような主張を行い、本件和解金は国内源泉所得に該当しないとして処分の取消を求めた。

  1. 本件和解金は、不正競争防止法上の損害賠償金であり、甲社の行為により乙社との間に標章の混同が生じ、乙社に営業上の損害が生じたことを主な理由とする損害賠償金であり、乙社の標章に対する社会的信用がき損されたことに対し金員を支払ったものである。
  2. 不正競争防止法上の損害金額の算定は、その立証が極めて困難であることから、商標法等の規定を類推適用して、損害の額を推定することが判例及び学説上行われている。
  3. したがって、本件和解金は商標使用料を基礎に算定しているが、商標使用料は、あくまでも損害賠償額を算定する一つの資料にすぎず、使用料の請求を認めたものではない。

審判所の判断

審判所は以下の通り、本件和解金はその全額が国内源泉所得に該当するというべきであり、国税当局による処分は適法であると判断した。

  1. 不正競争防止法による損害賠償金は、商品等表示等に係る不正競争行為による一切の損害の賠償であり、その商品等表示等の使用料に相当する額をも含むものである。
  2. 所得税法に規定する「工業所有権等」の使用料には、登録されている特許権、商標権等の権利だけではなく、登録されていなくても法令により保護されているこれらに類する権利等の使用料も含まれ、また、使用料として支払われたものばかりでなく、使用料に代る性質を有する損害賠償金その他これに類するものも含まれると解するのが相当である。
  3. そうすると、本件和解金のうち使用料に相当する額、すなわち、「当該侵害に係る商品等表示の使用」に対し「通常受けるべき金銭の額に相当する金額」があれば、当該金額については所得税法161条に規定する国内源泉所得に該当するというべきことになる。
  4. 標章の混同による営業上の損害としては、⑴標章の使用料の逸失による損害、⑵同一又は類似の標章を使用する類似の商品の販売等の減少による損害、及び⑶標章の混同による信用ないしイメージ等の低下等による損害が考えられる。本件和解金の算定方法は、使用料を根拠としていることから、本件和解金については、上記⑴に該当すると判断される。
  5. したがって、本件和解金は、その全額が工業所有権等の使用料に相当し、国内源泉所得に該当する。

総括

源泉徴収の対象となる使用料には、使用料として支払われるものだけでなく、その性質を有する損害賠償金や和解金なども含まれます。

この点については、所得税基本通達161-46(損害賠償金等)において

『法第161条第1項第4号から第16号までに掲げる対価、使用料、給与、報酬等(以下この項においてこれらを「対価等」という。)には、当該対価等として支払われるものばかりでなく、当該対価等に代わる性質を有する損害賠償金その他これに類するものも含まれる

(注) 「その他これに類するもの」には、和解金、解決金のほか、対価等の支払が遅延したことに基づき支払われる遅延利息とされる金員で、当該対価等に代わる性質を有するものが含まれることに留意する。』

と規定し、支払いの名目ではなく、その実質で判断すべきとしています。

そのため、本件のように、和解金という名目で支払われているとしても、その実質を検討し、使用料としての源泉徴収が必要か否かについて慎重に判断する必要があります。

また、和解金の算出根拠を検討し、使用料以外の部分として合理的であると判断される金額がある場合には、使用料とされる金額からは除かれることとなりますので、和解金の算出過程を分析することも重要と思われます。

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