東京地裁令和3年2月26日判決[7]

(1)事案の概要

X(原告・控訴人)は、塗装工事業を営む株式会社であり、塗装工事を受注すると、雇用する4、5名の従業員を当該塗装作業に従事させるほか、従業員だけで人数が足りない場合には、外注先に委託して塗装作業を行っていました。

Xは、平成26年10月頃、Xの従業員に対し、平成27年4月から健康保険及び厚生年金保険に加入し、各人の給与から健康保険及び厚生年金保険に係る各保険料を徴収する旨説明した[8]ところ、Xの従業員であった甲及び乙から、給与が減額されるのは困るので、「外注先」として取り扱ってほしいとの申出があったため、Xは、平成27年4月から甲及び乙を「外注先」として取り扱うこととし、同年3月、公共職業安定所長に対し、甲及び乙の「雇用保険被保険者資格喪失届」を提出しました。

その後、甲及び乙は、平成27年4月以降もXの塗装作業に従事し、甲及び乙がXの従業員として取り扱われるようになるまで、Xに対し請求書を提出し、Xから、各請求書に基づき、金員(本件支出金)の支払を受けていました。

なお、Xは、平成27年7月から乙を、平成29年7月から甲を、それぞれ再び従業員として取り扱い、他の従業員と同様に給与を支払いました[9]

Xは、甲及び乙に支払った本件支出金を課税仕入れとしてこれに係る消費税額を仕入税額控除に計上して消費税等の申告をしたところ、所轄税務署長から、本件支出金は作業員にとって給与所得であるから課税仕入れに当たらないなどとして、消費税等の更正処分等を受けたため、この取消しを求めたのが本件です。

(2)裁判所の判断

東京地裁は、S56最判の判断基準を引用し、また、消費税法基本通達1-1-1については、「これは、消費税法2条1項12号で課税仕入れから除外される『給与等を対価とする役務の提供』に該当するか否かの基準ではないが、その判断に当たっても参考となる基準といえる。」と判示しました。

さらに、地裁は、Xの支出金の「給与等」該当性について、1. 非代替性、2. 指揮監督性、3. 危険負担、4. 材料等の支給、5. 雇用保険被保険者資格喪失届の意義の5つの考慮要素を挙げ、それらが、「給与等」該当性を補強する要素となるかどうかを検討しています。

特に2については、「本件各作業員は、本件支出金が支出されていた間も、従業員であった時期と同様に、原告から空間的、時間的な拘束を受け、原告の指揮命令に服し、原告に対して継続的ないし断続的に労務又は役務を提供していたものというべきであり、このことは、本件支出金の『給与等』該当性判断において最も重視されなければならない。」と判示し、その他の要素も総合判断した結果、本件支出金は「給与等」に該当するから課税仕入れには当たらず、仕入税額控除の対象とはならないと判示して、Xの請求を棄却しました。

(3)その後の動向

Xは、地裁判決を不服として控訴したところ、東京高裁は、令和3年8月24日判決[10]で、原審の判示を踏襲し、Xの控訴を棄却しました。さらにXは、控訴審判決を不服として、現在最高裁に上告受理申し立てを行っております。

ところで、本件控訴審判決では、Xは、「(S56最判)が既に40年以上も前のものであって、その間に、コンピューターやインターネットの飛躍的発展により働く場所を選ばなくなるなど人々の働き方の態様は大きく変化したから、同判例の判断基準である空間的・時間的拘束の有無は、もはや妥当性に重大な疑義があるし、本件基本通達(筆者注1-1-1)も、消費税法における事業の概念が所得税法におけるそれよりも広いとの命題を示しておらず、また、事業への該当性について、消費の対象となる付加価値の移転の有無によって説明されるべきであるとの観点が一切顧慮されていないとの不備があるから、消費税法における事業該当性の判断基準として誤っている」という補充的主張をしました。

これに対し、東京高裁は、S56最判は「昨今のテレワーク等の普及によって、勤務場所が使用者によって直接に管理、支配される会社の事務所や作業場等ではなく、自宅等に移行するなど、社会情勢の変化が見られるとはいえ、そのような場合でも、テレワーク等を行う場所を使用者に届け出た上で、上司等からの指揮・命令を受け、上司等へ必要な報告を行うことができる環境を整え、所定の時間を勤務することが要請されているのが一般的であることも考慮すると、使用者の指揮監督の下で、一定の場所において継続的又は断続的に労務を提供し、これに対する対価(賃金)が支払われるといった実態には何らの変わりはないというべきである。そうすると、今日の社会情勢の変化を踏まえても、(S56最判)は、その本質的な判断部分については、十分にその妥当性を有しているということができる。」と判示しました。


[7] 令和2年(行ウ)第68号

[8] 判決文によれば、Xは、平成27年3月まで、源泉所得税等及び雇用保険料のみを控除し、各従業員に対し月額給与を支給していたようである。

[9] この理由について判決文では明らかでない。

[10] 令和3年(行コ)第73号

請負報酬と適格インボイス制度

本年10月からスタートする適格インボイス制度では、自ら作成した仕入明細書を相手方の確認を受けた上で請求書等として保存することで、仕入税額控除のための請求書等の保存要件を満たすとされています(新消法30⑨三)。

消基通11-6-6は、建設工事等を請け負った事業者が、建設工事の全部又は一部を他の業者(下請業者)に請け負わせる場合において、元請業者が下請業者の行った工事等の出来高について検収を行い、当該検収の内容及び出来高に応じた金額等を記載した書類(出来高検収書)を作成し、それに基づき請負金額を支払っているときは、当該出来高検収書は、適格請求書等として取り扱われる旨定めています。

ただし、この場合、当該出来高検収書の記載事項が適格請求書等の要件を満たしており、かつ、その内容について下請業者の確認を受けていることが必要となります。

したがって、裁判所が定立した非独立性基準及び従属性基準に準拠し、請負による報酬を支払う事業者は、自らの課税仕入れとして消費税の仕入税額控除の対象とするため、適格請求書等の記載要件を満たした出来高検収書等を作成し、下請業者等相手先の確認を受けた上で同者に交付することになります。


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【執筆者過去記事】

インボイスがやって来る(その8)

インボイスがやって来る(その9)

インボイスがやって来る(その10)

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