帳簿不提示に関する3つの見解
帳簿不提示と仕入税額控除については、従前より、様々な見解があり、下級審の判示でもその判断が分かれておりました。
以下、その概要を示すと、3つの説に大別されます。
- 否定説(客観的保存説)
法30条7項が「帳簿及び請求書等を保存しない場合」と規定していることを重視し、納税者が実際に、物理的に帳簿及び請求書等を保存していない状況を判断要素とする見解です。
この見解を採用する裁判例として、大阪地裁平成10年8月10日判決[6]があり、同判決は、「保存という文言の通常の意味からしても、また法全体の解釈からしても、税務調査の際に事業者が帳簿又は請求書等の提示を拒否したことを、消費税法30条7項の保存がない場合に該当する、あるいはそれと同視した結果に結び付ける課税庁らの主張は、もはや法解釈の域を超えるものといわざるを得ない。(中略)課税仕入れの事実の有無やそれに係る帳簿又は請求書等の所持・保管の事実について裁判所の司法判断を経ないまま、仕入税額控除が認められないことになるが、法30条1項や7項、それに法の他の規定からも、そのような法的効果を導く解釈を採ることは無理である。」と述べています。
なお、上記平成16年最判の直後に結審した類似事件の最高裁平成16年12月20日判決では滝井繁男裁判官の反対意見[7]が付されており、同裁判官は、この見解を支持しています。
- 肯定説(保存・提示包含説)
納税者が正当な理由なく帳簿等の提示に応じなかった場合には、「保存しない場合」に該当するという見解です。
この見解を採用する津地裁平成10年9月10日判決[8]では、「税務調査において帳簿等の提示を拒否した納税者は、仕入税額控除を受けることができないこととなるが、帳簿等を適正に保存さえしていれば、納税者が税務調査においてそれを提示することは極めて容易であり、その機会も十分に与えられるのであるから、敢えて課税処分がなされた後に帳簿等の提出権を認めなければならない合理的理由はない。」と述べています。
- 適法提示要請説
これは、法30条7項にいう「保存」とは、税務職員による適法な提示要請があれば提示することができる状態での帳簿等の保存を意味するという見解で、平成16年最判もこの見解を採用したものと解されます[9]。
[6] 平成7年(行ウ)第25号(TAINS:Z237-8223)
[7] 滝井裁判官は、「事業者がそのように態勢を整えて保存することをしていなかった場合には、やむを得ない事情によりこれをすることができなかったことを証明した場合を除き、仕入税額の控除を認めないものと解することは、結局、事業者が検査に対して帳簿等を正当な理由なく提示しなかったことをもって、これを保存しなかったものと同視するに帰着するといわざるを得ないのであり、そのような理由により消費税額算定の重要な要素である仕入税額控除の規定を適用しないという解釈は、申告納税制度の趣旨及び仕組み、並びに法30条7項の趣旨をどのように強調しても採り得ないものと考える。」と述べている。
[8] 平成6年(行ウ)第9号(TAINS:Z238-8234)
[9] 岩品信明「帳簿不提示と仕入税額控除」『租税判例百選[第7版]』有斐閣185頁参照。
肯定説・適法提示要請説に対する批判
平成16年最判を検討するに、適法な提示要請があることを前提として、「保存しない」という適用要件を、「適時にこれを提示することが可能なように態勢を整えて保存していなかった場合」として、あたかも条文にない要件を追加して解釈を行い、帳簿の「不提示=不保存」とみなして仕入税額控除の適用を否定しているように思われます。
この点につき、文理解釈を逸脱しているという論者[10]も多く、なんらかの立法的解決が図られることが望ましいといえます[11][12]。
[10] 三木義一「消費税仕入税額控除の要件についての再論」『納税者件理論の展開』勁草書房(2001年)562頁は、「消費税法の条文の中で『保存』と『提示』(筆者注:現行法では国税通則法74条の2で規定されている)が別々に規定されている状況を無視して、調査時の不提示をあたかも『不保存』とみなすような解釈は租税法律主義の法理に著しく反する解釈である。」と述べている。
[11] 岩品・前掲注(9)参照
[12] 山口敬三郎「帳簿等の提示がない場合の仕入税額控除の可否に関する一考察」税務事例(Vol.54 No.12)2022年12月33頁は、「調査非協力については、仕入税額控除を認めないという制裁ではなく、消費税法第6章の罰則規定で対応すべきではないだろうか。そうしないと消費税の付加価値税としての本質が失われてしまうのではないだろうか。」と述べている。
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