会計業界における人材育成の難しさは、多くの会計事務所が直面する共通課題です。この記事では、辻・本郷 ITコンサルティング株式会社の鈴木正彦氏と佐藤龍一氏に、その挑戦について赤裸々に語っていただき、具体的な解決策を解説いただきました。

この記事の目次

これまで私たち辻・本郷グループは、多くの方とご縁があり、一緒に働く仲間に恵まれてきました。

しかし顧客が増えて業務の幅が広がり、一緒に働く仲間も増えていくにつれ「スキルアップができない」「人材が育たない」という課題が重くのしかかってくるようになります。

実際に新入社員は自分のスキルに悩み、上司は忙しい中で時間をかけても思うような育成ができないことにジレンマを持っていました。

【人材育成挑戦記】

プロフィール

鈴木正彦さん鈴木正彦
新卒で会計事務所に4年勤務した後、2009年に辻・本郷 税理士法人に入社。小田原事務所・横浜事務所の所長、金融機関への出向経験あり。キャリアサポートグループの責任者として、研修の企画・運営を行う。その後、辻・本郷 ITコンサルティング株式会社にて、会計事務所向け会員サービスNEXTA(ネクスタ)プレミアムを活用した人材育成のDXを推進。2022年10月から人事部採用担当マネージャー、同年12月からDXバックオフィス事業部マネージャーを兼務。現在は、業務提携している大手コンサルティング会社とともに、お客様の電帳法・インボイス対応のコンサルティングに従事。

佐藤龍一
2012年に辻・本郷 税理士法人盛岡事務所へ入社。2018年に東京本部へ異動し、2023年10月に辻・本郷 ITコンサルティング株式会社へ転籍。
辻・本郷 税理士法人では、新卒社員や税理士法人職員への研修を実施。

人材育成のジレンマ

佐藤:私は新卒で入社し、盛岡事務所で働いていました。当時は給与計算や月次入力をしていましたが、何のために何をやるのかを理解できず、出来が悪く仕事も覚えられませんでした。

それでも少しずつお客さまを担当させてもらえるようになりましたが、一方で事務所としてはお客さまの数が増え、激務を理由にお世話になった上司や同僚が次々と辞めていきました。

地方ゆえに人材確保もままならず、また新人が入社しても、業務に手一杯で育成の時間をあまり取ることができませんでした。

鈴木:私は、10名規模の事務所の所長を経験しました。所長としてスタッフの人材育成に向き合い、悩み・葛藤する日々でした。

経験豊富なスタッフが少なく、新人が入社するたび、自分がソフトの 操作から試算表作成の手順までなど、毎 回同じことを教えていました。

また仕事の指示をして外出し、チェックするために戻ると、新人は聞ける人がいないことで仕事が進んでおらず、結局指示した仕事を自分でやることもありました。育成が進まず、仕事の負担が増えました。

佐藤:自分は当時の上司に、「俺が何してる時でもいい。昼食中でもタイムカー ドを切った後でもいい。わからないことがあれば、いつでも質問にきなさい」と言われました。とてもうれしかった です。

この人の様になりたいと思い、私なりに後輩に接しました。ですが仕事が増えるにつれ、つらい・しんど いと感じ始め、入社して6年ですかね、ぷつんと糸が切れました。

「疲れた、もういいや」と思い、辞表を提出しました……

辻・本郷全体で研修を導入、そして失敗……

鈴木:知識向上を目的に全体研修を導入しましたが、仕事が多様化し、一律の研修ではテーマ設定が難しく、事業承継や裁決事例など、特に新人には目先の仕事と遠いテー マのものが多くなってしまいました。
また受け身の受講となり、時間をかけたのに何も身につかない研修にもなっていました。

業務習得を目的に新人研修も導入しましたが、現場担当者が講師を兼務し、資料も毎年変わることで、 教え方と内容にバラつきが生じ、結果人材育成の度合いにもバラつきが出るといった状態でした。

転機となった、キャリアサポートチームの立ち上げ

鈴木:失敗を繰り返さないため、人材育成に課題をもつメンバーを集め、研修の企画・運営をおこなうキャリアサポートチームを立ち上げることになりました。

狙いは、

  1. 人材育成のジレンマの解消
  2. 教え方を標準化し、属人化から 脱却
  3. 受け身から自発へ

の3つです。

佐藤:辞表を提出し、退職が決まって引継ぎを進めている中で、新しいマネージャーが来まし た。
何度か会話をすると、そのマネージャーが同じ苦しさ、もどかしさを経験していることを知りました。

自分と同じ状況で踏ん張っている人がいるのではないか、そのためにできることはないか。
あらためてそう考えていた時、研修のためのチームを作るので一緒にやらないかと誘われました。転職先はすでに決まっていましたが、もう一度がんばってみようと一念発起しました。

【解決策:研修をどのように変えたのか?】

上記で浮き彫りになった課題に対し、私たち辻本郷ITコンサルティングがはじめに取り組んだのは、新入社員を対象に行う研修メニューの策定と標準化でした。

ちなみに現在も、イチから税務を学ぶ方が 「3カ月で一人前になる」ためのカリキュラムを模索し、改良を行っています。

1. 継続は力なり!「実トレ試験」

知識の向上を目的に税法、季節業務、事例から出題しインプットします。週1回 5問を継続することで、年 250問に取り組み、点数で知識向上の定量化にも成功しています。

辻・本郷では、試験の参加を人事評価の評価項目に加えており、スタッフは積極的に試験を実施しています。また、四半期・年間で「成績上位者」の表彰を行っています。

 

2. 動画の活用、「実トレ研修」

会計事務所の主要業務を習得するための(新入社員用)研修メニューを作りました。
1人で動画を見ながら、作業の流 れやポイントを確認し、サンプルデータを使って実際に会計ソフトの 入力を行います。

入力データが正しいか確認しながら各項目を進めていくと、作業が完了するようにできています。

動画活用の効果

  • 必要なときに視聴し理解
  • 上司が不在で「聞けない」を解消
  • 教え方の標準化

人材育成は会計事務所共通の悩みである

会計事務所の人材育成の悩みは同じことから、2019年に辻・本郷の失敗から生まれた実トレ試験を外部の方にもご提供することになりました。

実際に外部の会計事務所から、次の声をいただいています。

「仕事で出た論点が『辻・本郷の実トレ試験で見た』ケースがあった」

「季節業務の注意点を補完できる」

まとめ

今回は、鈴木氏と佐藤氏の経験を通じ、会計事務所における人材育成の課題とその克服に向けた積極的な取り組みを紹介しました。
教育体制の革新とデジタルツールの活用は、事務所の成長とスタッフの能力向上の鍵です。

辻・本郷 ITコンサルティングが提供する「NEXTAプレミアム」は、この方向性を示すものとして、業界内で注目を集めています。

(1)実トレ試験

会計・税務に必要な「基礎知識の習得」や「専門知識の向上」のサポートを目的としたクラウド型学習システムです。
週1回配信される試験を受験できます。年末調整や確定申告など時期に応じた問題や、辻・本郷 税理士法人の事例に基づく問題も出題されるため、実務に役立つ内容になっています。試験結果を全国順位で表示、管理者はスタッフの集計レポートが出力可能です。

(2)実トレ研修

試算表や申告書の作成等、会計事務所の主要業務を作業の流れやポイントを動画で確認しながら、実際に会計ソフトの入力を行っていただけます。
税理士業務、PC基本操作、情報セキュリティ、ビジネスマナーの研修メニューもご用意しております。

(3)セミナー動画

税務・実務の関連情報、税制改正やインボイス制度など旬なトピックを題材としたWebセミナー動画、NEXTA限定のシリーズ動画をお届けします。NEXTA プレミアム会員特典として、辻・本郷で主催した有料セミナー動画をご視聴いただけます。
人材育成についてのお悩みは辻・本郷 ITコンサルティングへぜひお気軽にお問合せください。

 

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