渋谷区等でパートナーシップ条例が施行されるなど、近年同性同士の結婚について注目されることが多くなってきた。同性同士の結婚が現実味を帯びてくる中、浮き彫りになってきたのが、相続の問題だ。現状同性カップルが日本国内で行える相続税対策はあまり多くはない。現時点で行える相続税対策について整理してみよう。

近年、かつてないほどにLGBTへの関心が高まっている。
LGBTとはレズビアン(女性同性愛者)・ゲイ(男性同性愛者)・バイセクシャル(両性愛者)・トランスジェンダー(生まれた時の性別と違う性別を生きる人)の頭文字をとったもので、性的マイノリティーと呼ばれる人たちの総称だ。

東京・渋谷区でパートナーシップ条例が発効されたのを皮切りに、LGBTのカップルを公的に認める動きが広がっている。東京・世田谷区、兵庫・宝塚市、三重・伊賀市、沖縄・那覇市で同様の制度が施行されており、また今年6月からは北海道・札幌市でも開始される予定だ。

その内容は、渋谷区の条例を例にとると、男女の婚姻関係と異ならない程度の実質を備える戸籍上の性別が同一である二者間の社会生活関係を「パートナーシップ」と定義し、2人がパートナーシップの関係にあることを確認して証明書を発行するというものだ。2人が20歳以上であること、区内に居住し住民登録を行っていること――などがその条件となる。

証明を受けることで、住宅ローンや生命保険、携帯電話などの民間サービスを婚姻関係と同様に受けることが可能になるという。渋谷区では、区内の事業者が同性カップルへ不利な扱いをした場合は企業名を公表するとしている。

世界的には同性愛カップルの権利は拡大の方向へ

世界の潮流は、同性カップルと異性カップルとが同等の権利を持つ方向で進んでいる。例えば、筆者が住むドイツでは生活パートナーシップ法という法律により、異性との婚姻とは別に同性婚の権利が保証されており、同性パートナーとのパートナーシップ関係が法的に裏付けされている(なお、残念ながら外国籍のカップルがドイツでパートナーシップ法の適用を受けることはできない)。

ドイツ人の知人によれば、「LGBTであることをオープンにするのはドイツでは普通のこと」「身近な人間で自身のセクシャリティを公表している人が何人もいる」という。
またアジアに目を向けると、台湾では同性婚を認める民法改正案が議会で審議されており、法律の施行に向け大詰めを迎えている。

その一方で宗教的背景などにより、LGBTへの逆風も吹いている。

2015年に同性婚が合法であることが連邦最高裁判所で認められたアメリカだが、トランプ政権下において、ノースカロライナ州では、トランスジェンダーの人々が自認している性別ではなく、出生証明書と同じ性別のトイレを使用するよう強制する法案が可決されるなど、LGBTへの権利拡大とは逆方向の法改正が行われてもいる。

税法上の権利は全く認められていない

翻って本邦では、LGBTの権利問題についての議論はようやく始まったところだが、大企業などではLGBTフレンドリーを掲げるケースも見受けられる。
機運の高まりを受け、各種生命保険会社では、生命保険の受取人に同性のパートナーを指定できるよう変更し始めている。

LGBT当事者は、最近の動きについてどう感じているのか。ある当事者はこう語る。

「認めてもらうことと受け入れてもらうことの違いを考える必要があるかと思います。
さまざまな自治体や企業において、認めるということが進んでいますが、その先の問題として、果たして平等に受け入れてもらうことができるのかということです。
その上で、やはり考えなければならないのが、カミングアウトすることが前提ということ。それ(カミングアウト)を良しとする人もいますが、立場的に言えない、言わないという人が多数いるわけで、そうなると、果たして、そこを認めてもらい、受け入れてもらうということは難しいのではないかと思います」

残念ながら現状ではカミングアウトが社会的地位に影響を及ぼしてしまうため、その行使も難しいというのが実情のようだ。
また、具体的な法律の整備もまだ追いついていない。

税制という観点からLGBT問題を見た場合、同性婚が法的に認められるようになり大きく変わるのは、何といっても相続税だろう。相続においては法的に認められる配偶者であるかどうかは非常に大きな意味を持つ。法的な配偶者として認められるかどうかで、相続税の額はあまりにも違うのだ。

同性カップルのメジャーな相続税対策は「養子」

現状同性パートナー同士が、相続税対策を行うには、遺言によりパートナーに財産を譲ることが一般的だ。しかし、その場合は法定相続人(父母等直系尊属、子等直系卑属、婚姻関係にあるもの)の遺留分を除いた額しか遺せない。さらに、相続税額の2割に相当する金額が相続税としてさらに加算されてしまう(2割加算)。遺言は相続対策にはなるが、相続税対策にはならないのが現状だ。

相続税対策を含め法的に繋がりを持ちたい場合には、パートナーのどちらかがどちらかの養子になることが一般的だ。
しかし、配偶者と養子とでは相続税法上の特例には大きな差異がある。

配偶者の場合、

(1) 1億6千万円
(2) 配偶者の法定相続分相当額

(1)と(2)のどちらか額が高い方の金額まで非課税で相続ができる。

これがパートナーを養子とした場合、3千万円+600万円×法定相続人の数が課税価格の合計額から控除されるにすぎない。
さらに、今後もし同性婚が認められるようになった場合に、養子縁組を解消して婚姻関係に切り替えることができるかは、現段階では未知数だ。異性同士の場合、養子縁組を解消して婚姻関係に切り替えることはできないからだ。

LGBT当事者も関心が高い相続問題

相続に関しては、たとえ婚姻関係にある夫婦であっても、よほどの資産家でもなければ真剣に取り組んでいる人は決して多くはないだろう。しかしそれは、配偶者間であれば相続税については数多くの特例が設けられているため、ことさら対策を練る必要がないという側面が大きいのではないだろうか。

LGBT当事者に取材を行ったところ、相続問題については複数の人が「興味がある」「関心がある」と回答した。だが、現在相続対策を行っているかについては、「時期がきたら、対処したいとは考えている。しかし、何をどうしたらいいのかわからずそのまま」だという。

養子縁組による相続税対策は有名だが、LGBT問題に詳しい税理士も、「表沙汰にはしないだけかもしれないが」と前置きしつつ「現実的にはあまり聞かない」という。

2人で協力して家庭を営みながらも、片方が亡くなった途端にさまざまな厄介ごとが降りかかってしまう同性カップル。異性カップルと同じように社会生活を営むためには、税法の面だけ見てもまだまだ課題は多い。