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国税不服申立制度 改正後の「再調査」激減、審査請求は増加へ

2016年4月から、国税不服申立制度が見直され、納税者は税務署等の課税処分に対して、異議申立て(現・再調査の請求)を行わずに、第三者機関である国税不服審判所へ直接審査請求が出来るようになった。そして、さきごろ国税庁から初年度となる平成28年度の再調査の請求等の事績が明らかになったが、再調査の請求件数が激減する一方で、審査請求件数は増加に転じる結果となった。

「異議申立て」飛ばし不服審判所へ審査請求OKに

国税不服申立制度の見直しは、平成26年6月に半世紀ぶりの抜本改正となった行政処分に関して、国民が見直しを求めて行政庁に不服を申し立てる「行政不服審査法」の改正に伴う国税通則法の改正によるもので、不服申立制度の公平性及び利便性の向上を図るために行われた。

これまでの国税における不服申立制度は、税務署長等が行った処分等に不服がある場合、納税者は、①2カ月以内に税務署長等へ「異議申立て」を行い、異議決定後の処分になお不服がある場合には、②第三者機関である国税不服審判所へ「審査請求」を行う“2段階方式”となっていた。そして、それでも納得がいかない場合、最終的に裁判所で争うことになる。

改正では、国税に関する処分件数が大量であるとともに、納税者の利便性を考慮して、まず異議申立てとほぼ同様の位置付けとして新たに設けられた「再調査の請求」を行うか、直接、国税不服審判所に「審査請求」を行うかを納税者が選択できるようにし、その請求期限が3カ月に延長された。

<税務署の判断に不服のあるとき>

国税庁HPより引用し作成

また、審査請求に関しても、審理関係人(審査請求人・参加人・税務署長等)の証拠物件の閲覧・謄写が認められるとともに、審査請求人の処分庁に対する質問も行えるようになるなど、所要の手当てが行われた。

このうち、実務家の間で話題となったのが、青色申告に係る更正処分を除き異議申立て(現・再調査の請求)を経なければできなかった審査請求がストレートに行えるようになったこと。というのも、異議申立ての場合、担当調査官等は代わるものの課税処分をした税務署で審理等を行い、最終的に同じ税務署長が判断を下すことになる。このため、納税者の主張が認められるケースは高くないことから、再調査の請求を避けて直接審査請求を行う納税者が多数出るのではとの憶測が出ていた。

再調査の請求件数は前年度の半分

国税庁・国税不服審判所が明らかにした改正初年度となる平成28年度における再調査の請求・審査請求・ 訴訟の概要を見ていくと、まず、税務署長等が更正・決定や差押えなどの処分をした場合に、その処分に不服がある納税者が税務署長などに対してその処分の取消しや変更を求める税務署長等への「再調査の請求」の件数は、前年の3191件から1674件と、47.5%(1517件)に減少し、統計を始めた昭和26年以降、最も少ない件数となり、税務署との“再戦”を避ける納税者が多いことが明らかとなった。なお、実際に申請を行った納税者数は「500人程度」(国税庁)となっている。申請件数を税目別でみると、申告所得税等(574件)や消費税等(484件)が多い。

一方、処理件数も過去最少の1805件で、その態様をみると、納税者の主張が何らかの形で受け入れられたのは前年度に比べ1.6ポイント減少となる6.8%にあたる123件(全部容認100件、一部容認23件)だった。

直接審査請求は4倍に

直接または再調査の請求を経たものを合わせた国税不服審判所への審査請求件数は、申告所得税及び法人税の件数が増加したことから、2488件と390件ほど前年度より増加した。件数は、平成20年以降多発していた輸入貨物の引取りに係る消費税課税処分事案が決着したことから、ここ数年は発生件数が2千件程度に推移している。税目別では、消費税等(937件)、申告所得税(558件)の順となっている。

再調査の請求を経ずに直接審査請求を行った件数は、前年度の368件から1473件と約4倍に増加しており、このうち改正前から直接審査請求が認められている。

税務署長が行った所得税法や法人税法に規定する青色申告書に係る更正処分等について、不服がある場合などを除いた新たな制度を活用しての直接請求件数は全体の8割に当たる1200件弱のようだ。

一方、前年度からの継続分を合わせた要処理件数3895件のうち、処理されたのは1959件と、前年度よりも352件減り、同所創設後初めて2千件を下回った。これは、平成26、27年度の審査請求件数がこれまでで1番目及び2 番目に少ない件数だったことが要因として挙げられるが、「直接請求件数が増加し、これらの事案に期間を取られたことも要因ではないか」(実務家)との見方もある。なお、処理態様では、納税者の主張が何らかの形で受け入れられた件数は241件(全部容認49件、一部容認192件)となり、ここ3年間一ケタ台となっていた認容割合は4.3ポイント増加の12.3%と8件に1件、上昇した。

国税不服審判所へ審査請求を行い裁決が出されても、なおその処分に不服がある場合には、裁判所へ訴訟提起することができるが、平成28年度の訴訟提起数は230件と5年連続の減少となるとともに平成に入り最も少なかった。

一方、継続事案も含めて245件の訴訟が終結はしており、気になるその結果を見ると、納税者の主張が全て認められた(国側全部敗訴)ものが6件、一部認められた(国側一部敗訴)ものが5件の計11件で、やはり納税者の主張が認められた割合は、再調査の請求や審査請求に比べ4.5%と低い。これは、裏を返せば、訴訟に至るまでにしっかりとした審理等が行われていることになる。なお、国側の敗訴11件を税目別内訳でみると、法人税が7件と所得税が4件となっており、審級別でみると、一審判決7件、二審判決3件、上告審1件だった。

再調査申請のメリット

国税不服申立制度の見直しにより、最初に簡易で迅速な審理手続きである「再調査の請求」を選ぶか、早期に第三者機関である国税不服審判所の「審査請求」で判断を仰ぐか納税者は選択できるようになり、今回、税務署長等への再調査の請求の手続きを採らず国税不服審判所への「審査請求」の道を選んだ件数が1200弱あったが、再調査の請求は損(無駄)ではないことも頭に入れておきたい。

というのも、たとえば、税務調査時に納税者自身が調査官に主張を伝えきれていなかったり、証拠の提出が出来ていない場合などでは、再調査の請求時に改めて税務署に主張等を提出して審理してもらうことで、たとえ再調査の請求で負けたとしても、審査請求での戦い方が変わってくることが想定される。また、近年では複雑な事案も多く、税務署等からの更正通知書の理由付記等の内容(根拠)が今一つ曖昧なケースや争点が整理されていないケースも見受けられるようで、そのような際にも再調査の請求を行うことで、争点が整理・明確化し、税務署等の主張や処分の根拠をはっきり知ることができ、審査請求の手続の整備充実が図れる。さらに、再調査の請求に比べ国税不服審判所への審査請求は準備時間も長く掛かることから、改正で請求期間が3カ月に延長されたものの事案によっては準備期間としては不十分となり、準備不足から満足な審査請求が行えないことも考えられる。また、再調査の請求については、請求から決定までの期間が3カ月以内と定められたことから、これまでのように事案は長期化しない。

もちろん、争点が整理され主張内容が明確であれば審査請求して早期に解決すべきだが、はじめから“審査請求ありき”では進めない方がよいだろう。

著者: イーター侍

税金ライター/元税金専門誌編集者

四半世紀以上、税金専門誌の編集者として国税庁、国税局、税務署、会計事務所に出入りする。数年前に独立した後、編集者時代に築いた人脈をいかし、ネットワークビジネスを手がける。その傍ら、趣味と副業を兼ねて税務関係ニュースを追いかける“中年ライター”だ。

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