重加算税賦課要件である「隠蔽」の意味
国税通則法68条《重加算税》は、事実の隠蔽・仮装に基づき、過少な納税申告書を提出したり、納税申告書の提出を怠っていた場合などに、重加算税を課す旨規定しています。
したがって、ここにいう「隠蔽・仮装」の意味が問題となりますが、例えば、国税通則法68条1項の「事実の隠蔽」とは、売上除外、証拠書類の廃棄等、課税要件に該当する事実の全部又は一部を隠すことを指すと理解されています。すなわち、重加算税賦課に当たっては、納税者が、故意に課税標準又は税額等の計算の基礎となる事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装したことが必要であると理解されているのです。なお、この点については、当初から積極的に事実に反する経理処理等をするような場合のみでなく、事実に反する経理処理等がされていることを知りながら、それを放置して訂正しないでおく意思があったような場合も、「故意」によるものということができるとした次のような事例もあります。
すなわち、東京地裁平成25年4月18日判決(税資263号順号12203)では、原告会社の甲社長が、問題となっている資産の棚卸表記載の金額がかかる資産の金額よりも少ないことを認識しながら、その資産の正確な数量や金額を把握する意思なく、本来の在庫数量とは異なることを認識しながら、かかるデータを利用して棚卸表を作成し、これと他の商品在庫に関するデータとを合算することにより棚卸集計表を作成したと認めるのが相当であると認定されており、確定申告書の添付書類である当該事業年度に係る損益計算書において棚卸資産の期末商品棚卸高が過少に計上されていたことが「隠蔽」又は「仮装」に該当すると判断されています。
このように「隠蔽」という概念が故意ないし意図的なものであるという点については、しばしば議論されることがあります。
この点について、例えば、品川芳宣教授は、やはり隠蔽・仮装行為の認定に当たっては納税者の故意や認識が必要であると主張されています(品川『附帯税の事例研究〔第4版〕』303頁以下(財経詳報社2012))。さらに、同教授は、現行の加算税通達(「法人税の重加算税の取扱いについて(事務運営指針)」など)が、この点について何も触れていないことについて批判を展開されています。つまり、現行の加算税通達が、納税者の故意や認識が必要とされる旨を明確に示していないことを問題視されるのです。