税金を滞納しておくと、最終的に課税当局が滞納処分の手続きを踏むことになり、納税者は何かしら処分を受ける。その国税の滞納件数が18年連続で減少していることが、国税庁の調べで分かった。

新規発生滞納額はピーク時の3分の1に減少

税金を滞納したままにしておくと、国は納税義務の適正な実現を図るため、納税者に対して何らかの処分を行うことになる。具体的には、「督促」「財産の差し押え」「財産の換価」「換価代金の配当」などだ。

国税庁によると、このうち平成28年度(平成28年4月~29年3月)における督促状が発付された新規滞納額は6221億円で前年より9.5%減少したことが分かった。この数字は、過去最も多かった平成4年度の1兆8903億円と比べると実に3分の1程度にまで減少している。

減少の要因をみると、これまで行ってきた①確定申告期の納税相談時に期限内納付の勧奨、②振替納税の利用勧奨とともに利用に対する口座振替日に残高不足とならないよう預金残高確認の呼び掛け、③環境整備、納付手段の更なる多様化としてのコンビニ納付及びインターネットバンキング方式(ペイジー)の利用拡大のほか、④各国税局(所)に設置している「集中電話催告センター室(納税コールセンター)」から納期限前や督促状発付前に納付指導のため滞納者へ電話をするなど、さまざまな方法での滞納未然防止のアプローチが功を奏しているようだ。

新規発生滞納額の税目別内訳では、預り金的性格の「消費税」が3758億円と全体の半分以上を占めており、次いで「申告所得税」の1157億円、「法人税」611億円、「源泉所得税」348億円、「相続税」317億円、「その他税目」31億円と続く。これら滞納額は、前年度と比べ軒並み減少している。しかし、その中にあって相続税は、平成25年度税制改正に伴う課税対象者の拡大の影響もあってか、17.6%増加しているのが特徴だ。

新規発生滞納額を徴収決定済額で割った「滞納発生割合」は、新規発生滞納額が1億6千万円を超えた平成10年度には3.24%だったが、その後低下して平成16年以降13年連続で2%を下回り低調に推移していたが、28年度は1.08%と国税庁の発足以来最低となった。

納税コールセンターと滞納免脱税で整理促進

滞納の整理状況だが、28年度も大口・悪質事案や処理困難事案に対する厳正・的確な整理を実施するとともに、納税者の関心も高い消費税の滞納圧縮に重点を置いて進められ、同年度の整理済額は前年度に比べ1割近く少ないものの、7024億円とここ5年間では2番目に多い数字となっている。

また、近年の滞納整理において、課税当局が力を入れて行っているのが、納税コールセンターによる電話催告と訴訟の活用及び滞納免脱税の適用だ。

国税総合管理(KSK)システムから送られてくる滞納者情報データを基に自動的に機械が電話を掛け、滞納者が応答した時点で職員のパソコンにその滞納者の滞納税額等の情報が表示される「集中電話催告システム」を使って納付催告を行う「納税コールセンターによる電話催告」では、今年6月までの1年間で対象となる約83万者に対してアプローチを行い、約60万者が完納するとともに約11万者がすぐには全額支払うことは出来ないが分割払い等の納付方法を決めるなどの納付誓約を行っている。

また、長期滞納事案や故意に滞納処分の執行を免れる目的で財産を隠ぺいするなど通常の滞納整理の手法では処理進展が図られない事案については、訴訟手法の活用や滞納処分免脱罪を適用し整理の促進を図っている。

訴訟手法の活用とは、課税当局(国)が原告となって訴訟を提起するもので、例年150~160件程度行われており、28年度も「差押債権取立訴訟」18件、「供託金取立等訴訟」6件、「名義変更詐害行為」5件、「債権届出などその他」129件の合計158件行っている(別表参照)。

原告訴訟事件の処理状況(単位:件)

気になる訴訟の結果をみると、前年度からの継続案件を含め154件が終結しており、滞納者の主張が認められたものは1件もなく、すべて原告(国側)の勝訴となっている。

ちなみに、
「差押債権取立訴訟」は、滞納者が持っている売掛金や貸付金、不当利得返還請求権、ゴルフ会員権などを国が差し押さえている場合で、その債権の弁済期が来ているにもかかわらず、第三債務者が国に対して任意に弁済をしないときに、その債権の取立を行うためのもの。

「名義変更訴訟」は、債権者である国が、滞納者に帰属しながら滞納者の名義となっていない財産の名義を滞納者名義とすることを求めるためのもの。

「詐害行為取消訴訟」は、国が滞納者から第三者に対する財産の贈与など、国を害する法律行為の効力を否定して、滞納者から離脱した財産をその第三者から取り戻して差押えをするためのもの。

「供託金還付請求権取立権確認訴訟」は、国が差し押さえた債権について、滞納者からその債権を譲り受けたと主張する第三者がおり、国とその譲受人のどちらに弁済すべきか判断できず、弁済に代えて金銭を供託所に供託した場合に、その供託金を国が取り立てることができることの確認を求めるためのもの。

一方、滞納処分免脱罪(国税徴収法第187条)は、財産の隠蔽などにより滞納処分の執行を免れようとする悪質なケースに対して適用するもので、同罪の罰則は3年以下の懲役若しくは250万円以下の罰金に処し、またはこれを併科とされている。同年度の告発件数は、前年度の7件(法人5社・個人8人)よりも少ない4件(7人員)となっている。