絵画の価値を知る「精通者」の意見
エスティメートは、オークションを盛り上げるためにあえて低く設定された開始価格に基づいて算出される見積りであり、エスティメートをもって時価評価を行うことには無理があったと思われます(なお、実際、サザビーズの見積書には、「買手の強い関心を引き出し、活発な競りを促すため、かなり控えめな見積額を公表するのが慣習である」旨の記載がなされていたことも裁判において認定されています。)。
もっとも、静岡地裁は、このようにオークションハウスの算出したエスティメートを精通者意見として取り入れることはできないとする一方で、「Y側精通者はいずれも美術館学芸員の地位にある者であり、世界的名画の歴史的価値や社会的価値については専門的知見を有しているものと解されるが、通常の業務として世界的名画の売買取引を行っている者ではないから、世界的名画の取引市場の動向についての専門的知見を有している者に該当するのかは疑問であり、これを本件絵画の時価を判定する際の精通者意見として用いることはできないというべきである。」とも述べています。
その上で、「以上検討してきたところを総合考慮すれば、両当事者が提出する精通者意見がいずれも採用できないので、本件絵画の本件相続開始時における時価は、売買取引実例価額及び近時の価格動向によって判断すべきであると解されるところ、その取得価格である7,500万ドルから価格が下落することはなかったと認めるのが相当であるから、本件絵画の相続財産としての評価額は、7,500万ドルを本件相続開始時の為替レート1ドル106.35円で換算した79億7,625万円であったと認められる。」と結論付けました。
頻繁に売買がなされ時価を容易に把握できるような上場株式等の資産とは異なり、絵画や骨董品の評価には困難を伴うことが多々あります。本来、絵画等の価値というものは、人それぞれの趣味嗜好により大きく異なるものでしょう。ショッケが、当時世間から認められていなかった印象派絵画を愛したように、必ずしも時代や世間が正当な評価を下しているものばかりとも限りません。しかし、相続税の計算において、そうした個々の好みを評価に織り込むことは当然認められず、納税者側と課税庁側での争いの火種となってしまうのかもしれません。上記静岡地裁判決では、課税庁側の精通者意見も採用することが難しいとされていますが、絵画の本来の価値が分かる税務官吏ショッケであれば、どのような評価額をはじき出していたでしょうか。




