租税法と重要性の原則
さて、租税法の世界ではどうでしょうか。
例えば、法人税法上の処理に関して、企業会計で認められている「重要性の原則」という考え方を適用できるかどうかという論点があります。
企業会計原則注解1「重要性の原則の適用について(一般原則二、四及び貸借対照表原則一)」は、「企業会計は、定められた会計処理の方法に従って正確な計算を行うべきものであるが、企業会計が目的とするところは、企業の財務内容を明らかにし、企業の状況に関する利害関係者の判断を誤らせないようにすることにあるから、重要性の乏しいものについては、本来の厳密な会計処理によらないで他の簡便な方法によることも、正規の簿記の原則に従った処理として認められる。」としています。
法人税法は「企業会計準拠主義」を採用し、同法22条《各事業年度の所得の金額の計算》4項は、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従って、益金や損金の額を計算をすることとしています。すなわち、かかる基準に企業会計原則が含まれるとすれば、同原則を構成する重要性の原則による処理も法人税法が規定する益金や損金の額の計算において尊重されなければならないことになりますが、果たしてどうでしょうか。
議論のあるところとは思いますが、立法論は別として、解釈論においては、重要性の原則の適用は認められるべきではないと思われます(酒井克彦『プログレッシブ税務会計論Ⅰ』146頁(中央経済社2016))。
租税法律主義の下では「合法性の原則」、すなわち、課税要件が充足している以上は課税しなければならないという大原則の支配が及びます。したがって、税務当局は、法律の定めのない限り、その裁量によって租税を免除したり軽減したりすることは許されないのです。
国税に100円未満の端数があるときはその端数を切り捨てることとされていますが、これは国税通則法119条《国税の確定金額の端数計算等》1項が少額省略を法の定めにより認めているからであって、税務当局や納税者の自由裁量によるものではありません。このような規定があってはじめて少額省略が認められることを踏まえれば、租税法の解釈においては、重要性の原則の適用の余地はないと考えるべきではないでしょうか。もっとも、重要性の原則を念頭に置いている通達が発遣されているのも事実ですが、そのような通達の妥当性については深慮ある検討が必要であるように思われます。
犯罪を構成するか否かが争点とされている問題と、法人税法上の解釈適用問題を同様のものとして理解することには自ずと限界があるといわねばならず、課税の公平が重視されるべき租税法において、上記のちり紙スリ事件のような考え方は、租税実体法の解釈には適用できないのではないでしょうか。




