税制改正に当たっては、多くの関係団体が税制改正要望を提言します。例えば、日本医師会は、社会保険診療報酬等に対応する部分の消費税の仕入税額控除の制度見直しを要望していますし、かつて、日本新聞協会は、新聞等に消費税の軽減税率を適用するよう求める声明を発表しています。このように各団体が各々に関係する税制改正を要望しているところですが、今回は日本建設業連合会の印紙税廃止要望を参考に、こうした税制改正要望を確認してみましょう。

日建連の事業目的と税制改正要望

平成25年度税制改正により、平成26年4月から「工事請負契約書に係る印紙税の大幅な負担軽減措置」が導入されていますが、この軽減措置は平成30年3月31日に期限を迎えます。この点について、一般社団法人日本建設業連合会(以下「日建連」といいます。)は、工事請負契約書に係る印紙税について、かかる期限をもって印紙税そのものが廃止されるべきであることを要望しています。

日建連とは、全国的に総合建設業を営む企業及びそれらを構成員とする建設業者団体が連合し、建設業に係る諸制度をはじめ建設産業における内外にわたる基本的な諸問題の解決に取り組むとともに、建設業に関する技術の進歩と経営の改善を推進することにより、我が国建設産業の健全な発展を図り、もって国民生活と産業活動の基盤の充実に寄与することを目的とする団体です(日建連ホームページより)。

こうした目的の下、日建連の事業として、「建設事業の遂行に関する諸制度や建設産業における内外にわたる基本的な諸課題について、調査研究及び関係機関への意見具申を行うこと」が掲げられており、工事請負契約に係る印紙税負担の問題は、「建設事業の遂行に関する諸制度や建設産業における内外にわたる基本的な諸課題」と位置付けられることになりましょう。また、日建連は、「国民生活と産業活動の基盤整備に関する調査研究並びにその推進のための提言及び意見具申を行うこと」も事業内容としていますから、税制改正要望は同団体にとって重要な提言であると思われます。

日建連の要望は我田引水か?

なるほど、建設業においては、重層請負構造により多重に印紙税が課されるので、他業種に比して印紙税の負担が重いといえそうです。そうすると、印紙税の廃止を主張する日建連の要望は、自分たちの団体にとって都合のよい税制を主張する我田引水的な要望なのではないかとの疑問も浮かびます。この点についてはどのように考えるべきでしょうか。

そもそも印紙税は文書すべてに課されているわけではありません。

とりわけ、建物賃貸借契約書や物品売買契約書等については平成元年度税制改正により課税が廃止されていることからしても、業種間における公平性毀損の問題も提起され得るところです。一見、「工事請負契約書に係る印紙税の廃止」を訴える日建連の要望は、我田引水的な主張のようにも思われますが、中立性の観点からの税制提言と位置付けることもできそうです。

日建連と税務行政の意外な繋がり

さて、この日建連の事業活動の一つに、「優秀建築等に対する顕彰活動を行うこと」があります。日建連による「BCS賞」は有名で、お聞きしたことのある方も多いのではないでしょうか。これは昭和35年に創設され、爾来、我が国の良好な建築資産の創出を図り、文化の進展と地球環境保全に寄与することを目的に、毎年、国内の優秀な建築作品を表彰しています。

平成12年の第41回受賞作品は、国税庁の公務員研修機関である「税務大学校和光校舎」(埼玉県和光市)です。筆者も年間を通じてここで講義を行っていますが、BCS賞に相応しい建築物であると思います。税務行政と日建連のつながりはここにもあったのですね(ちなみに、昭和54年の第20回受賞作品は、筆者の研究室がある中央大学多摩キャンパス(東京都八王子市)です。)。