民法の相続分野の規定を見直す改正案が6月6日、衆議院法務委員会で審議入りした。被相続人である夫が亡くなったあと、残された配偶者がこれまで住んでいた家に住み続けることができる居住権を新設するなど、配偶者の生活に配慮した改正を行う。

衆院法務委員会で審議入りした相続分野の民法改正案は、婚姻期間が20年以上の夫婦について、配偶者に住居を生前贈与するか、遺言で贈与の意思を示せば、その住居は遺産分割の対象から外すというもの。具体的には、「配偶者短期居住権」と「配偶者居住権」を創設する。
「配偶者短期居住権」は、配偶者が相続財産である建物に相続開始のとき無償で居住していた場合、遺産分割によりその居住建物の帰属が確定した日または相続開始のときから6カ月を経過する日のいずれか遅い日まで、居住建物を無償で使用することができる権利。この配偶者短期居住権は譲渡することが出来ず、また他のすべての相続人の承諾を得ない限り第三者に使用させることができない。存続期間の満了前でも、配偶者が死亡したときまたは配偶者が配偶者居住権を取得したときは消滅するとしている。
配偶者の居住権については、実は、現在法制度の下でも最高裁判例によって、遺産分割が終了するまでの間について、一定の限度で保護されているのはご存知だろうか。
判例では、遺産分割協議の前においては、共同相続人全員が建物所有権を共有するため、相続人である配偶者は自己の持分に基づき、建物を占有することが認めている(昭和41年5月19日最高裁第一小法廷判決)。
また、被相続人の許諾を得て建物に同居していたときは、特段の事情がない限りは、他の相続人に対し、賃料相当分の支払い義務も負わないと判断されている。とはいうものの、この判例の法理は、あくまで被相続人と相続人間の合理的な意思解釈に基づくもので、被相続人が明確に異なる意思を表示していた場合については、配偶者の居住権が保護されないこともある。そこで、これらをカバーする目的から、配偶者短期居住権という新たな制度を設けるものと推察される。
一方、「配偶者居住権」は、法制審議会民法(相続関係)部会において検討された当初は、配偶者短期居住権と対比し、「長期居住権」という名称で検討されていた。内容については、配偶者が相続財産である建物に、相続開始のとき居住していた場合、一定用件に該当するすると、その居住建物を無償で使用及び収益をすることができる権利としている。ただし、被相続人が相続開始時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合にはこの限りでないとしている。
法案によると一定用件とは、
(ア)遺産の分割によって配偶者居住権を取得するものとされたとき
(イ)配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき
(ウ)被相続人と配偶者との間に、配偶者に配偶者居住権を取得させる旨の死因贈与契約があるとき
とされる。
この配偶者居住権の創設ついて法制審議会民法(相続関係)部会第2回会議議事録には、「現行法上、建物の使用権限だけを配偶者に取得させて、そのほかの部分については、他の相続人に取得させるという形で遺産分割をすることが、なかなか理論的に難しい面があるので、それを解消するための制度として新たなオプション、選択肢を設けるという趣旨」としている。
ちなみに配偶者居住権は、配偶者の居住期間が長期となる可能性が高く、事情の変化により居住権が不要となることも考えられ、法制審議会民法(相続関係)部会では、換価の手段として第三者への譲渡を認めることも検討されていた。しかし、配偶者居住権は配偶者の死亡によって消滅することから、換価は難しいこと、配偶者居住権の制度趣旨とも整合しないことから、法案では、第三者への譲渡が認められないものとなった。
このほか、今回の相続税法にかかわる民法の改正では、息子の妻が義父母の介護をしていた場合など、被相続人の親族で相続対象でない人でも、介護や看病に貢献した場合は、相続人に金銭を請求できる仕組みもつくる。これまで相続で争いの元のひとつになっていた介護問題に関して、一定の要件を満たせば介護していたものについても金銭請求できるという点では、一歩前進だろう。ただ、現実的には、一定の要件次第では難しい問題を残すことになるかもしれない。
今回の相続分野の民法が見直されると、今まで以上に細かな点まで把握・配慮した相続対策が不可欠になる。上川陽子法相は「配偶者の生活を配慮し、速やかに可決頂きたい」としており、これからは本当の意味での相続の専門家が求められることになりそうだ。