2018年6月15日から「住宅宿泊事業法」、いわゆる民泊新法がスタートした。法人以外にも個人事業者、サラリーマンといった給与所得者等の個人も空き部屋を提供して事業に参入するケースも少なくなく、国税庁も課税の取扱いを公表している。そこで、改めて宿泊料金等の課税処理について確認する。

民泊は、これまでも旅館業法上の「旅館業」及び国家戦略特別区域法による国家戦略特別区域内で条例に規定した自治体(東京圏(東京、神奈川、千葉・成田市、千葉・千葉市)、関西圏(大阪、兵庫、京都)、新潟・新潟市、兵庫・養父市、福岡・福岡市、福岡・北九州市、沖縄、秋田・仙北市、宮城・仙台市、愛知、広島、愛媛・今治市)のみ実施可能とする「特区民泊」があった。
これに対して民泊新法は、外国人観光客の増加に伴って住宅の空き部屋やマンションの一室を観光客等に宿泊所として貸し出す「民泊」が増えている一方で、①安全面や衛生面の確保がなされていない、騒音やゴミ出しなどによる近隣トラブルも増加していること、②観光客の宿泊ニーズが多様化していることへの対応のため、住宅宿泊事業の届出制度や住宅宿泊管理業・住宅宿泊仲介業の登録制度など一定のルールを定めて健全な民泊サービスの普及を図る目的で、平成29年通常国会に上程され、2017年6月9日に参議院本会議で成立し創設された。
住宅宿泊事業の定義
宿泊業の実施に際しては原則、旅館業法に基づく許可が必要となるが、住宅宿泊事業法第3条第1項の届出をした者は、旅館業法第3条第1項の規定にかかわらず、住宅宿泊事業を営むことができる。
住宅宿泊事業とは、旅館業法第3条の2第1項に規定する営業者以外の者が宿泊料を受けて届出住宅に人を宿泊させる事業で、住宅宿泊事業を行う者は、都道府県知事等への届出が必要とされ、民泊できる年間提供日数の上限は180日(泊)と定められている。また、同事業は、家主居住型と家主不在型の2種類があり、住宅宿泊事業者に対し、家主居住型の民泊の場合は、住宅宿泊事業の適正な遂行のための措置として、衛生確保措置、宿泊者に対する騒音防止のための説明、近隣からの苦情への対応、宿泊者名簿の作成・備付け、標識の掲示等が、家主不在型の民泊の場合も家主居住型の措置(標識の掲示は除く)を住宅宿泊管理業者に委託することがそれぞれ義務付けられており、都道府県知事等が、住宅宿泊事業者に係る監督を実施する。
加えて、同法の他にも、各自治体が定める条例による住宅宿泊事業の実施の制限もある。
設備要件と居住要件の充足が不可欠に
民泊として利用する住宅は、設備要件と居住要件を満たす必要がある。具体的には、設備要件として台所・浴室・便所・洗面設備といった「その家屋を生活の本拠として使用するために必要なものとして国土交通省令・厚生労働省令で定める設備が設けられているもの」。
一方、居住要件としては、①現に人の生活の本拠として使用されている家屋、②入居者の募集が行われている家屋、③随時その所有者、賃借人又は転借人の居住の用に供されている家屋のいずれかに該当することとされている。
民泊の所得区分は「雑所得」
個人が居住する住宅を利用して有料で旅行者に宿泊させる民泊に係る所得区分は、一見「不動産所得」や「事業所得」となるのではと考えられるが、実際は「雑所得」に該当する。
というのは、住宅宿泊事業法では宿泊施設の提供者に、宿泊者の安全等の確保や一定程度の宿泊サービスの提供を義務付けており、利用者から受領する対価には、部屋の使用料のほか、寝具等の賃貸料やクリーニング代、水道光熱費、室内清掃費、日用品費、観光案内等の役務提供の対価などが含まれているとことや、利用できる家屋は前記①~③に限定されていることなどを総合的に判断した上で、「雑所得」とされている。
ただし、不動産賃貸業を営んでいる者が、契約期間の満了等による不動産の貸付け終了後、次の賃貸契約の締結までの間を利用して一時的に住宅宿泊事業を行っているケースでは、「不動産所得」に含めても問題ない。また、専ら住宅宿泊事業による所得により生計を立てているなど、住宅宿泊事業が所得税法上の事業として行われていることが明らかなケースも「事業所得」に当たる。
したがって、「雑所得」なら年間20万円までであれば申告の必要はない。また、「不動産所得」、「事業所得」であれば赤字は他の所得と損益通算することが可能だが、「雑所得」なら赤字となっても他の所得と損益通算はできない。
民泊における必要経費とは
では、民泊における必要経費として所得から差引くことができる費用だが、その収入金額を得るため直接に要した費用及びその年における販売費、一般管理費その他住宅宿泊事業による所得を生ずべき業務について生じた費用となる。
具体例を挙げると以下のとおり。
・ 住宅宿泊仲介業者に支払う仲介手数料
・ 住宅宿泊管理業者等に支払う管理費用や広告宣伝費
・ 水道光熱費
・ 通信費
・ 非常用照明器具の購入及び設置費用
・ 宿泊者用の日用品等購入費
・ 住宅宿泊事業に利用している家屋の減価償却費
・ 固定資産税
・ 住宅宿泊事業用資金の借入金利子
なお、居住している住宅を民泊として利用している場合の水道光熱費や固定資産税などは、民泊としての業務用部分と生活用部分の費用の両方が含まれていることから、業務用部分の金額のみ必要経費に算入することとなる。
また、建物の減価償却費についても住宅宿泊事業における届出書等に記載した事業に利用している部分の床面積の総床面積に占める割合や住宅宿泊事業を行っていた日数を基にするなど、合理的な方法により按分して計算すれば必要経費となる。